マスター2段階テストを使用した運動負荷心エコーの肺高血圧症に対する有用性【Journal Club 20211124】

Simple exercise echocardiography using a Master’s two-step test for early detection of pulmonary arterial hypertension

Journal of Cardiology 2013 ; 62 : 176–18

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サマリー;マスター2階段テストを使用した運動負荷心エコー検査では軽度の症候性結合組織病患者のPAHを検出できるため有用である
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 P: PAH疑い
 I: 運動負荷心エコーでPAP≧50mmHgかつ6MDで400m歩行できない方
 C:non-PAH
 O:感度・特異度
 T:心臓カテーテル検査

<背景>
PAHは肺動脈圧と肺血管抵抗の増加を特徴とする小さな肺血管のリモデリングが原因である.初期段階のPAHでは典型的な徴候や異常な心エコー結果が見られず、進行段階で診断されることがよくある.心臓カテーテル検査は肺動脈圧測定のゴールドスタンダードと見なされているが、その侵襲性とコストのために全例でできない.さらに一般的に、結合組織病(CTD)は、PAHを発症するリスクが高いためPAHの早期発見が非常に重要であるが、安静時の心エコー検査だけでは感度が低いのが現状である.そこで運動負荷心エコー検査がスクリーニングとして有効であると言われている.実際は半座位エルゴメーターを備えた施設でのみしかできないため,シンプルで安全かつ信頼性の高い運動負荷心エコー検査を確立する必要があり,運動負荷心エコー検査にマスターの2階段テストを採用し、CTD患者のPAHの早期発見に対するその有用性を評価した.

 <研究デザインの型>前向きコホート

 <セッティング>
2010年8月から2012年8月
WHOの機能分類2のCTDの合計300人

<対象者>
臨床的に原因不明の軽度の息切れがあり、その後運動心エコー検査を受けた患者
□除外者(60人)
・PAHの既往歴あり
・安静時の収縮期肺動脈圧 ≥  50mmHg
・激しい拘束性換気障害あり(努力肺活量 <予測値の80%)(n  =  10)
・左室収縮障害,EF < 60%(n  =  14)
・左室拡張障害 ,E / E ”  ≥  15(n  = 16)
・重大な弁膜症(n  =  8 )
・全身性高血圧(安静時の収縮期血圧 >  150  mmHg,拡張期>  90mmH)(n  =  12)
・運動負荷試験を行うことができなかった人たち

<解析方法>
一元配置分散分析,テューキー検定,カイ2乗検定,ロジスティック回帰分析

<方法>
WHOの機能分類2で軽度息切れなどの症状があり早期PAHの疑いがあり、運動負荷心エコー検査と右心カテーテル検査を受けた52人の結合組織病患者が含まれた.心エコー検査はマスター2階段運動テストの前後に実行された.研究患者は、非PAH(平均肺動脈圧< 25 mmHgが 37人)またはPAH(平均肺動脈圧 ≥ 25 mmHgが15人)のグループ.

<結果>
■220人(92%)が20秒以内に運動負荷心エコー検査を受けることができた.
■20人の患者(8%)は、運動時間が超過し、心エコー像の画質が低くなり除外された.
■検査中、胸部の症状を訴える患者はいなかった.
■220人の患者のうち、108人(49%)は運動誘発性肺高血圧症であった.
(安静時の収縮期肺動脈圧 < 50  mmHg,運動後の収縮期肺動脈圧 ≥  50 mmHg)
■108人のうち400m未満の6分間歩行できなかった運動耐用能力が低い68人が 選ばれ,最終的に52人がRHC(心臓カテーテル検査)を受けた.
■52人の内訳は
・SSc:36人(69%)
・MCTD:8(15%)
・SLE:5人(10%)
・SS:3人(5%)
■心臓カテーテル検査で平均肺動脈圧<25mmHgは37人,≧25mmHgは15人

<結果の解釈・メカニズム>
■心エコー検査で推定された安静時収縮期肺動脈圧は、2つのグループ間で有意差はなかったが,運動後の収縮期肺動脈圧に有意差が見られた.ロジスティック回帰分析では、運動後の収縮期肺動脈圧がPAHの独立した予測因子であることを示した.運動負荷心エコーで収縮期肺動脈圧≧50mmHgの中で6MD で400m歩行できないような方に絞ったうえで心臓カテーテル検査をしている.ROC曲線では心エコーで最も感度と特異度が高い肺動脈圧をプロットしていったらPAP≥ 69.6 mmHgは、感度93%,特異度90%でPAHを予測した.
■運動誘発による肺動脈圧の異常増加は、肺血管床の許容を超えて肺血管抵抗が上昇することが原因である可能性がある.運動によりカテコラミン、バソプレシン、エンドセリン1が上昇し肺血管を収縮させ肺胞低酸素となる.また,運動時の肺動脈圧上昇は、肺血管障害だけでなく、左室圧上昇によっても引き起こされる可能性がある.

<Limitation>
■本研究は、PAHの検出にマスター2階段テストを採用した初めての研究であること.
■まだ臨床研究によって検証されていないため、この方法が多施設に有用であるかどうかは不明なままであるため,今後より多くの人口を対象としたさらなる研究が必要である.
■運動負荷心エコー検査は通常、エルゴメーターを使用され、収縮期肺動脈圧は運動中に推定される.この研究では、運動後の収縮期圧は患者がベッドに横になった直後に測定されたため各患者のタイムラグが影響を与えた可能性がある.
この単純な運動心エコー検査の確立には、より多くのデータの蓄積が不可欠です。
■安静時の心エコーで肺動脈圧が<50mmHgは心臓カテーテル検査は必要ないと判断され除外されているため,実際はPAHがあるかもしれない可能性があること.

<この論文の好ましい点>
■CTD患者のPAHの早期発見に対して侵襲的検査を利用せずその有用性を評価した.

担当:伊藤拳一

 

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