Safety and efficacy of rituximab in systemic sclerosis (DESIRES): a double-blind, investigator-initiated, randomised, placebo-controlled trial
全身性強皮症に対するリツキシマブの安全性と効果(二重盲検ランダム化比較試験)
著者 S.Ebata. et al.
掲載雑誌/号/ページ The Lancet Rheumatology VOLUME 3, ISSUE 7, E489-E497, JULY 01, 2021
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<サマリー>
リツキシマブはプラセボと比較し、主要評価項目である24週後のmRSSが有意に改善し、全身性強皮症の皮膚硬化に対して有効性が認められた。
また副次的評価項目として、予測FVC(%)の悪化を抑制した。
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P:全身性強皮症
E:リツキシマブの投与
C:なし(プラセボ)
O:皮膚硬化(mRSS)の改善効果
<背景と目的>
全身性強皮症は多臓器の線維化を特徴とする自己免疫性疾患である。いくつかの薬剤において有効性が示されているが、いまだ治療法は確立されておらず、予後不良の疾患として知られている。
全身性強皮症患者において、B細胞の活性化の異常が確認されており、全身性強皮症のモデルマウスでは、抗CD20抗体を用いてB細胞を除去すると、線維化が改善されることが報告されている。またこれまでリツキシマブを用いた臨床研究では、皮膚硬化や間質性肺疾患への効果が示唆されている。
本研究では、リツキシマブの有効性を示すためにプラセボ対照二重盲検ランダム化比較試験を行った。
<セッティング>
2017年11月から2018年11月に登録された4施設での全身性強皮症患者が対象
(東大皮膚科、筑波大皮膚科、福井大皮膚科、中京病院皮膚科)
<研究デザインの型:RCT、横断研究、前向きコホートなど>
多施設合同二重盲検ランダム化比較試験。医師指導の第Ⅱ相臨床試験。
<対象患者・組み入れ基準>
2013年米国リウマチ学会および欧州リウマチ連盟の分類基準を満たすSScのうち、以下を満たす。
・modified Rodnan Skin Score(mRSS)が10以上。
・6ヵ月以上の生存が見込まれる。
・20~79歳。
・登録前の2週間以内にプレドニゾロン1日10mg以上に相当するコルチコステロイドの投与がされていない。
・登録前の4週間以内に抗線維化剤、他の治験薬、免疫抑制剤、高用量の静脈内免疫グロブリン、イマチニブの投与がされていない。
<除外基準>
肺高血圧症または全身性硬化症に伴う重篤な疾患の合併
顕著な呼吸予備能の低下(%VC 60%未満)
過去2年以内のシクロホスファミド投与歴
<主要評価項目>
Primary outcome
・皮膚硬化(24週後のmRSSの変化量)
Secondary outcome
・肺病変(予測FVC% 、%DLCO、全肺気量、CTでの間質性陰影の面積の変化、SP-D、KL-6のベースラインからの変化)
・QOL(SF-36およびHAQ-DIの変化)
<薬剤の投与方法>
リツキシマブ375mg/m²またはプラセボを1週間毎に4回静脈注射
<治験中の薬剤の使用>
※治験中はPSLの増量は禁止(PSL 10mg以下で維持)
※治験中は皮膚硬化や呼吸機能に影響を与えうるその他の薬剤は禁止。
– 抗線維化剤(例:ニンテダニブ、ピルフェニドン)
– 免疫抑制剤(例:シクロホスファミド、シクロスポリン、タクロリムス、アザチオプリン、ミコフェノル酸モフェチル、ミゾリビン)
– IVIg
-イマチニブなど
<無作為化の方法>
疾患期間(6年以下または6年以上)、mRSS (20以上または20未満)、間質性肺疾患の併発の有無を評価し、最小化法を用いて、1:1に無作為に割り付けた
<盲検化の方法>
すべての患者および治験責任医師を盲検化。盲検化を維持するために、CD3+、CD19+、CD20+などのリンパ球数の違いも盲検化した。
<評価方法>
mRSSのばらつきを防ぐため、mRSSはトレーニングを受けた評価者を各施設で1人に設定した。(計4施設で計4人を選定)
<統計解析>
mRSSの変化量の最小二乗平均値を混合モデル反復測定法で推定し、グループ間で比較した。誤差をモデル化するために非構造化共分散構造を用いた。
共変量としては、治療群,タイムポイント,治療群とタイムポイントの間の交互作用,ベースライン時のmRSS,その他の割り付け因子である罹患期間(6年未満または6年以上)、間質性肺疾患の有無とした。
サブグループ解析として罹患期間、間質性肺疾患の有無、ベースライン時のmRSS、性別を事前に設定。事後解析として、年齢、疾患タイプ(びまん性vs 限局性)、CRP(0.3 mg/dL未満 vs 0.3 mg/dL以上)、RTX治療前の免疫抑制療法の有無でサブグループ解析を行った。
%FVC、%DLCO、SF-36、HAQ-DIは主要解析で用いた混合モデル反復測定法を適用し、ベースラインから24週間後の変化の最小二乗平均値をグループ間で比較した。
間質性陰影の占有面積、SP-D、KL-6は、ベースラインと24週間後の変化をMann-Whitney U 検定を用いて中央値で行った。有害事象については記述統計学的に求めた
すべての統計解析には,SAS バージョン9.4を使用。
サンプルサイズは以下の方法で測定
24週時のmRSSの変化量を先行研究の結果からリツキシマブ群で-6.9、プラセボ群で-1.2と予測し、両側有意水準5%、検出力80%を得るために必要なサンプルサイズは50名(各群25名)とした。
<結果>
Figure 1 対象患者のフローチャート
2017年11月28日から2018年11月6日の間に、80人の患者がエントリーされ、スクリーニングし、56人を登録、無作為に割り付けた。
リツキシマブ群に28人、プラセボ群に28人。薬剤投与前にプラセボ群で2例除外した。(1人の患者がHBs抗体陽性であることが判明。1人の患者が急性腎盂腎炎を発症。)
リツキシマブ群では27名、プラセボ群では22名の患者が24週間のフォローアップ期間まで観察された。
リツキシマブ群の中で、1例が低アルブミン血症で脱落。
プラセボ群の中で、2例の患者が試験期間中に他の治療法を希望し脱落。1例が胆道系酵素上昇で脱落。
Table1 ベースラインの患者背景
患者のベースラインの特徴および治療歴は、両群間で類似していた。
(年齢は49.1 vs 48.3歳、diffuse typeの割合が82% vs 85 %、罹病期間は58.5 vs 52.0ヶ月、mRSSは14.4 vs 15.7、間質性肺疾患合併例が89% vs 88%、特異抗体としては、トポイソメラーゼⅠ抗体が54% vs 50%、セントロメア抗体15% vs 13%、RNAポリメラーゼⅢ抗体18% vs 12%。)
Table2 および Figure2 主要評価項目と副次的評価項目の結果
・主要評価項目
ベースラインから24週間の追跡調査までのmRSSの変化量はリツキシマブ群がプラセボ群に比べて有意に低かった(-6.30 vs +2.14)(p<0.0001)
・副次的評価項目
24週目の予測FVC%のベースラインからの変化率は、リツキシマブ群がプラセボ群に比べて有意に改善した(0.09% vs -2.87%)( p=0.044)
SF-36、HAQ-DIなどのQOLのマーカーについてはプラセボと比較し、有意な差は見られなかった。
Figure 2 主要評価項目(皮膚硬化)に関するサブグループ解析
罹病期間、間質性肺炎の有無、皮膚硬化の程度(mRSS≧20 or <20)、性別、年齢、SScのtype、前治療の有無、CRPの値などでサブグループ解析。症例数が少ないグループ以外では全て有意にmRSSが低下していた。
Table 3 有害事象について
有害事象は、リツキシマブ群では患者28名中28名(100%)、プラセボ群では患者26名中23名(88%)に発生した。
最も多かった有害事象は上気道感染症で、リツキシマブ群では11名(39%)、プラセボ群では10名(38%)の患者に発生した。
重篤な有害事象が各群1名の患者に発生し(リツキシマブ群では血清アルブミンの減少、プラセボ群では胆道系酵素の増加であり、両患者とも介入を中止した。
infusion reactionは発生しなかった。
有害事象および副作用の発生頻度は両群間で同等であった。
試験期間中の死亡例はなかった。
<結果の解釈、メカニズム>
mRSSを主要評価項目として全身性強皮症におけるRTXの有効性を示した初めての二重盲検ランダム化比較試験である。mRSSは主観的な要素も多く、プラセボ比較で有効性がしっかりと示せている点で有意義な研究と言える。
また本試験ではリツキシマブはプラセボと比較して、24週時点の予測FVC%が有意に高く、肺病変に対しての有効性も確認された。既存の報告においても、全身性強皮症の肺病変に対する治療として、RTXがIVCYよりも成績が良かったと報告している非盲検の前向き比較試験もある。(Sircar G et al. Rheumatology (Oxford) 2018; 57: 2106–13.)
RTXは全身性強皮症の免疫抑制薬として、積極的に考慮しても良いかもしれない。
<Limitation>
長期的な効果・副作用について検討できていない。(尚、論文内に記載はないが、同試験では52週時点までの効果・副作用について検討している。)
肺高血圧症の患者は除外されている。
%VC 60%以下の高度の間質性肺疾患の患者は除外されている。
寛解導入が必要・活動性が極めて高い症例においては検討できていない。
日本人のみの研究である。
皮膚硬化が軽度の患者は検討されていない。
重度の皮膚硬化症を持つ患者の数が少ない。
<どのように臨床に活かす?どのように今後の研究に活かす?>
(臨床)
全身性強皮症患者の免疫抑制薬としてリツキシマブの使用を検討する。
(研究)
臨床:リツキシマブの継続治療・維持療法としての適正使用法を検討する。
基礎:リツキシマブの線維化抑制の作用機序について解明する。
<この論文の好ましい点>
全身性強皮症の皮膚硬化に対してのプラセボ比較、無作為化、二重盲検の初めての論文。
症例数が比較的多い。サンプルサイズを計算している。
発症初期の症例以外でも、皮膚硬化の改善効果が示せている。
<この論文にて理解できなかった点>
統計解析で理解出来ない点があった。タイムポイントってどこのこと?
担当:石井翔