リウマチ領域における治療効果を比較した観察研究における時間依存性バイアス、方法論的レビュー

Time-dependent biases in observational studies of comparative effectiveness research in rheumatology. A methodological review

リウマチ領域における治療効果を比較した観察研究における時間依存性バイアス、方法論的レビュー

Iudici M, Porcher R, Riveros C, Ravaud P. Time-dependent biases in observational studies of comparative effectiveness research in rheumatology. A methodological review. Ann Rheum Dis. 2019;78(4):562-569.

<サマリー>

主要なリウマチ専門誌に掲載された治療効果を比較した観察研究の6件に1件は、時間依存性バイアスによって潜在的な欠点が存在する。

<背景>

時間依存性バイアス、すなわちimmortal timeバイアス(ITB)とtime-lagバイアス(TLB)は、time-to-event解析で観察されるバイアスである。両バイアスとも、薬で観察された利益を高い有効性や低いリスクの方向に誇張する傾向がある。適切な解析(ランドマーク解析、時間依存性cox回帰モデルなど)が求められる。

 

<セッティング>

2017年9月3日にPubMed(MEDLINE)を検索:リウマチ学(Annals of the Rheumatic Diseases,Arthritis & Rheumatology,Rheumatology (Oxford), Seminars in Arthritis and Rheumatism,Osteoarthritis and Cartilage)および一般・内科(NEJM,Lancet,JAMA,BMJ,Annals of Internal Medicine)におけるIFの高い5誌に掲載されている、介入のtime-to-eventアウトカムへの影響を調査したリウマチ性疾患の観察研究

 

<研究デザインの型>

A methodological review

 

<Population、およびその定義>

リウマチ性疾患に罹患している年齢不問の参加者。

 

<主な要因、および、その定義>

薬物療法または非薬物療法

 

<主なアウトカム、および、その定義>

time-to-eventアウトカム

 

<交絡因子、および、その定義>

なし

 

<解析方法>

  • データ収集、データの抽出と管理、時間依存性バイアスのリスクの評価:著者2名が実施

 

  • ITBのリスク:以下の5つの質問からなるLevesqueらによって提案された基準で評価

(1) Was treatment status determined after the start of follow-up or defined using follow-up time? 治療状況は追跡調査開始後に決定されたのか、それとも追跡調査期間を使って定義されたのか?

(2) Was the start of follow-up different for the treated and comparator group relative to the date of diagnosis? 治療群と比較群では、診断日に対してフォローアップの開始時期が異なっていたか?

(3) Were the treatment groups identified hierarchically? 治療群は階層的に同定されたか?

(4) Were subjects excluded on the basis of treatment identified during follow-up? 追跡調査中に治療に基づいて除外された被験者はいたのか。

(5) Was a time-fixed analysis used? 時間固定の解析が行われたか?

  • ITBリスクをITBがない/あるに分類
    • 誤分類ITBリスク:immortal timeの期間が時間固定解析で治療群に誤って帰属した場合
    • 除外ITBリスク:immortal timeを解析から除外した場合

 

  • TLBリスク

(1)異なる病期で処方された2種類以上の薬剤を比較した場合

(2)研究結果が病期によって交絡する可能性がある場合

(3)解析が病期や過去の薬剤使用で調整されていない場合

 

  • 質的変数:数(%)、連続変数:中央値(範囲)、フィッシャーの正確検定またはマン・ホイットニー検定で比較。

 

<結果>

検索された1029件の記録のうち、78件の論文が選ばれた。

 

  • 各論文の総サンプルサイズの中央値は6393例(範囲49-341 749例)
  • 研究の多くはリウマチ専門誌に掲載され(n=71; 91%)、企業からの資金提供はなく(n=48; 62%)、安全性の主要評価項目は(n=46; 59%)であった。
  • 13件(17%)の研究が時間依存性バイアスのリスクあり。
  • 8件(10%)はITB、5件(6%)はTLBのリスク。
  • 時間依存性バイアスのリスクと関連する要因は、著者の出身地(p=0.002)、雑誌のインパクトファクター(p=0.033)、研究対象疾患(p=0.0002)。

ITBリスクのある研究

8件(10%)の研究は、誤分類ITB、除外ITBはなかった。ITBのリスクがある研究の多くは、インパクトファクター中央値(IQR)4.8(4.6-9.8)の雑誌に掲載され、全身性結合組織病または血管炎の治療について研究し(n=7)、non-COIによるもの(n=7)であった。統計解析は、時間固定Cox回帰とKaplan-Meier曲線がよく用いられた。

階層的治療曝露モデル(すなわち、治療対未治療)を用いた研究では、

(1)治療を受けるまでの待ち時間を治療群に考慮した場合(n=5試験)、

(2)治療状態を累積到達量/受けた治療回数とした場合(n=2試験)、

(3)治療状態を少なくとも1回調剤を受けたものとした場合(n=1試験)

に、ITBを誤分類していることがわかった。

これらの場合、アウトカムのハザードが曝露群では過小評価され、比較対象群では過大評価された可能性が高く、その結果、治療群の有益効果が誇張されたり、有害性のリスクが低くなったりしたと考えられる

TLBの危険性のある研究

DMARDsと生物学的製剤による治療を受けた患者のがんまたは結核の発症リスクを比較したものであった。4つの研究では、著者は罹病期間や過去の薬物曝露について調整しておらず、1つの研究では、両群は傾向スコアでマッチングされているが、ステロイドの累積投与量についてのみ調整されていた。

<結果の解釈・メカニズム>

一流雑誌に掲載されたリウマチに関する観察研究の約6件に1件の割合でITBまたはTLBが認められた。ITBはimmortal timeの「除外」ではなく「誤分類」によるものであった。TLBは、従来の合成DMARDs投与患者と生物学的製剤投与患者を、罹病期間や過去の薬剤摂取量を考慮せずに比較した場合に認められた。

誤分類immortal timeは以下のようなケースで注意。

(1) 追跡調査開始(すなわち、診断時、コホートへの登録時)から治療開始までの待ち時間があり、その時間が誤って被曝群に帰属している場合

(2) 追跡調査期間中の薬物摂取が「あった」「なかった」として扱われる場合

(3) 参加者が曝露されたと分類されるために、一定の薬物使用期間または一定の累積投与量が必要とされる場合。ヒドロキシクロロキン累積摂取量など

また、ITBが除外された症例が見つからなかったとしても、immortal timeを解析から除外しないように注意する必要がある。

TLBは以下の場合に注意

  1. 異なる疾患期間が目的のアウトカムに関連する可能性がある。
  2. 第一選択薬への曝露が転帰の発生に関連する場合、たとえ長い期間が経過していても、その事象を第一選択薬または第二選択薬に起因させることは困難となる。このような状況では、潜伏期間と疾患期間を考慮した統計解析が必要である。

<Limitation>

  • IFのある雑誌を選択したため、文献中の時間関連バイアスの存在を過小評価した可能性
  • タイトルや抄録に使用したキーワードを記載していない研究を見落とした可能性
  • バイアスがどの方向に研究結果に影響を及ぼしたかを特定することはできたが、点推定値への影響を定量化することはできなかった。実際、ITBが治療効果推定値に与える潜在的な影響は、誤分類・除外された人時、正しく分類された人時のそれぞれの量、およびイベント数に依存する。ITBの大きさを定量化する方法には、それらのデータが詳細であることが必要である。残念ながら、ITBの危険性がある論文の中には、そのような情報をすべて示しているものはなかった。栗田らの研究で寛解達成から28日以内に維持療法を受けた患者と受けなかった患者に分類したことよりも、Maらの研究で治療曝露の定義に3年の待ち時間を選択したことの方が治療効果の推定に影響を与えたと予想される

 

<どのように臨床に活かす?どのように今後の研究に活かす?>

  • 時間に関連したバイアスに対しては適切な研究デザインや時間依存Cox回帰やランドマーク解析などの統計解析を用いることで回避できる
  • 異なる病期の患者群の比較では病期の違いを考慮する必要がある。

 

<この論文の好ましい点>

近年問題となっているITBに対してリウマチ界でも課題が多いことを示した。

(担当;柳井 亮)

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