同化療法を初めて行う閉経後女性におけるアバロパラチドとテリパラチドの有効性と心血管安全性の比較。米国の行政請求データベースによる研究 【Journal Club 20221130】

Comparative effectiveness and cardiovascular safety of abaloparatide and teriparatide in postmenopausal women new to anabolic therapy: A US administrative claims database study 

Osteoporosis International (2022) 33:1703-1714

F.Cosman, C.Cooper, Y.Wang, B.Mitlak, S.Varughese, S.A.Williams

同化療法を初めて行う閉経後女性におけるアバロパラチドとテリパラチドの有効性と心血管安全性の比較。米国の行政請求データベースによる研究 

<サマリー>

18ヶ月の治療期間において、アバロパラチドがテリパラチドと比較して同等の非椎体骨折の予防ができる。股関節の骨折は発症率が低くなり、心血管系イベントは変わらない。

 

 

<Introduction>

・骨粗鬆症は骨量の減少や、骨組織の劣化、微細構造の破壊を特徴とする疾患である。

・骨粗鬆症は骨折のリスクであり、機能的障害やQOL低下や経済的負担を増加させる。

 

・骨同化作用薬は、骨形成を促進し骨の微小構造を改善する。

・テリパラチド(FDA2002年承認)とアバロパラチド(FDA2017年承認)がある。

・後者はPTH1受容体選択性がある。

 

・“ACTIVE” 試験、閉経後の骨粗鬆症に対して18ヶ月間のRCTでは、

VF:アバロパラチドRR0.13 (95%CI 0.04-0.34)は、テリパラチドRR0.27(95%CI 0.20-0.37)と比較して効果あり1)

NVF:アバロパラチドRR0.50(95%CI0.28-0.85)は、テリパラチドRR0.62(95%CI0.47-0.82)と比較して効果あり1)

  1. Barrionuevo P, Kapoor E, Asi N et al (2019) Efficacy of pharma- cological therapies for the prevention of fractures in postmeno- pausal women: a network meta-analysis. J Clin Endocrinol Metab 104(5):1623–1630. 

 

・いくつかの骨粗鬆症治療薬は心血管系(CV)や脳血管系イベントのリスクやMACEs(MI, stroke, CV death)のリスクを増やすと示唆されている。

(ex: ホルモン療法や選択的エストロゲン受容体作動薬は静脈血栓のリスク上昇 etc.)

 

・“ACTIVE”試験では、重篤な心疾患有害事象は、アバロパラチドやテリパラチド、プラセボで有意差なし。

・アバロパラチドの使用は注射後に一過性かつ可逆的な心拍数上昇が関連している。

・テリパラチドやアバロパラチドのような外的介入による一過性の間欠的な心拍数の上昇に関係したC Vリスクを調べた疫学的研究は発表されていない。

 

<Study design>

・2017年5月1日〜2019年7月31日 Symphony Health, Integrated Dataverse(IDV)®︎から得た患者請求データを使用した後ろ向き観察研究。

・入院患者や独自のPatient Transactional Datasetによる請求項目や送金、処方箋、死亡率(退院)を含んでいる。

・処方、医療、病院の請求は電子カルテや検査センター、患者登録、薬局からのデータで強化される。

 

・アバロパラチドが認証をされていた期間(2017/5/1-2019/7/31)で、アバロパラチドかテリパラチドが最初に処方された日を基準日とした。

・基準日前期間として、既往歴や治療歴のデータが入手可能な5年間

・基準日後期間として、18ヶ月間+30日間のfollow-up

・治療効果の評価は治療後すぐに始まり、18ヶ月間+30日間は継続する。

・CVの安全性の評価は治療開始すぐから18ヶ月間+30日間は続ける。

<Study population>

「対象患者」

・50歳以上の女性

・対象期間でアバロパラチドやテリパラチドが新しく処方されている

・医療・病院受診のための請求が1件以上ある

・基準日12ヶ月前に薬局での請求が1件以上ある

 

「除外患者」

・Paget病や悪性腫瘍(非メラノーマの皮膚癌、子宮頸部非浸潤癌、乳管非浸潤がんを除く)

・基準日後に異なる骨同化作用薬へ変更した

・基準日前に骨同化作用薬をしていた

・Carlson Comorbidity Index>10

 

<Propensity score matching>

・無作為化を行わない場合、ロジスティック回帰に基づく傾向スコアマッチングを用いて、試験の対象/除外基準を満たした全て患者から解析コホートを作成した。

 

・置換を行わない貪欲マッチングアルゴリズムが採用され、キャリパー幅は0.2倍の標準偏差を等しいとした。

 

・コホートは73の変数(年齢、骨折歴、etc.)にマッチするように指定された

・R software MatchIt packageを用いてマッチしたペアを見つけた。

 

・2つの治療コホート間でのマッチ前とマッチ後のバランスは標準化され差を使って評価された。

 

<Endpoint>

・主要なエンドポイント:

治療開始後18ヶ月間+30日間以内の最初のNVFが起こるまでの期間

 

・副次的なエンドポイント:

治療開始後18ヶ月間以内で入院後MACEsの最初の複合エンドポイントまでの期間

 

・探索的な有効性のエンドポイント:

18ヶ月以内に股関節骨折したまでの期間と30日間の追跡調査

 

・探索的な安全性のエンドポイント:

治療開始後18ヶ月以内に心筋梗塞, 脳卒中, 真血管死亡が最初に起こるまでの期間

 

・死亡率の評価には病院の退院状況を使用した。

・心血管系のイベントはICD 10thに由来して定義している。

 

<Results>

アバロパラチド群(N=17,958)、テリパラチド群(N=61,914)

不適正な対象を外して、アバロパラチドはN=11,617、テリパラチドはN=22,809

傾向スコアマッチングで、それぞれN=11,616となった。

 

中央値は67歳(interquartile 61-75)

骨折の既往あり: 25.6%

治療開始1年前に骨折あり: 16.2%

治療開始の2.8年(±2.2年)前に骨粗鬆症の診断とされていて、45.6%の患者が骨吸収抑制薬を使用していた。

Exposure

平均使用期間:最後の処方日 + 処方日数 ― 基準日

アバロパラチド301.2日、テリパラチド313.4日

(12ヶ月以上治療を継続された患者は45%以上)

 

平均累積期間:基準日から最後に服用した日の全ての合計

アバロパラチド257.8日、テリパラチド269.2日

(12ヶ月以上治療された患者は33%以上)

(12ヶ月以上連続で治療された患者は34%以上)

 

新規の骨折が起こるまでの期間について

アバロパラチドvsテリパラチドは,

新規の非椎体骨折は、2.9% vs 3.2% (HR 0.89 p=1.03)

股関節骨折は、22%減, HR0.78 (0.62, 1.00; p=0.04)

→NVFに関して非劣勢であることが証明された

 

・これらの結果はサブ集団と矛盾なし

・デノスマブやBP製剤を以前使用した患者や、キャリパーマッチングの違い、治療期間の違いを除いても結果に差は出なかった。

・股関節骨折の感度分析では12ヶ月以上連続で治療を続けた患者と制限をかけた時、HR0.57 (0.35-0.94)との結果が出た。

 

サブ集団への有効性に関する評価

・75歳以上(N=2865)において、

NVF発症率は、アバロパラチドで3.4%, テリパラチドで4.8%, HR0.7 (0.54-0.9)

股関節骨折の発症率は、アバロパラチドで1.4%, テリパラチドで2.0% , HR0.69 (0.46-1.05) 

 

・1年前に骨折をしていた患者(N=1876)において、

NVF発症率は、アバロパラチド6.6%、テリパラチド6.1%, HR 1.08 (0.84-1.39)

股関節骨折発症率は、アバロパラチド2.2%, テリパラチド3.0%, HR 0.75 (0.5-1.11)

 

・以前骨吸収抑制薬を使用していた患者(N=5313)においては、

NVF発症率は、アバロパラチド3.3%、テリパラチド3.3%, HR 0.96 (0.78-1.18)

股関節骨折の発症率は、アバロパラチド1.2%, テリパラチド1.3%, HR 0.9 (0.64-1.26)

新規の心血管系イベントが起こるまでの期間

MACEsの複合エンドポイントの発症率

アバロパラチド 3.0%, テリパラチド 3.1%, HR 1.00 (0.84-1.20)

心不全を含めたMACEsの複合エンドポイントの発症率

アバロパラチド 6.6%, テリパラチド 6.4%, HR 1.05 (0.93-1.19)

 

<Discussion>

 

まとめ

治療開始後19ヶ月経つfollow-upにおいて、

・アバロパラチドは、数的にはNVFの発症率を下げた。(A vs T: 2.9% vs 3.2%)

・股関節骨折の発症率はアバロパラチドの方が低かった。

・MACEsとMACE+HFに関しては差がない。

 

骨折の予防に関して

・今回の研究では骨密度のデータが欠如していたが、ACTIVE研究とそれに続く2つの研究で、アバロパラチドの治療はテリパラチドに比べて大腿骨の骨密度を上昇させるとしていた。

→アバロパラチドは皮質の多孔性は増悪させず、骨量増加する。(今までの研究内容)

→股関節骨折に関して、テリパラチドよりも予防効果がある。(今回の研究内容)

→臨床前研究と、臨床研究の両者でアバロパラチドの有効性を示せた。

 

心血管系のイベントに関して

・心血管系イベントの発症率:今回の研究 > ”ACTIVE”試験(従来の研究)

 

・患者層がより幅広く、より多くの併存疾患を持っていた。

・全ての診療における”病名コード”を用いため、重複し過大評価した可能性

・”ACTIVE”試験は重大な心血管系イベントのシグナルを特定していなかった。

・閉経後女性は、大動脈石灰化の有病率と重症度、心血管系疾患の予測因子、死亡率がより大きい報告されている。

 

リミテーション

・データのソースが請求項目なので、研究目的のための情報ではない。

・入院の請求項目にはコードのエラー、未確定の診断、間違った分類などがある。

・服薬のコンプライアンスは評価されていない。

・心血管イベントは割り振られていない。

・退院としての死亡率だけにしか分析に含まれていない。

・未知の交絡因子(家族歴、喫煙状況、アルコール摂取など)は傾向スコアマッチングで調整されていない。

・完全な病歴と治療歴がないため、併存疾患が過小評価されている可能性がある。

・ランダム化比較試験には参加できないような、より広範な併存疾患を持つ患者が含まれていることが予想されるので、他のランダム化比較試験と比較する際には注意が必要

 

<どのように臨床に生かす>

オスタバロ1.5mg(アバロパラチド)は16128円/筒 毎日1回 皮下注射 18ヶ月間まで

テリボン56.5μg(テリパラチド)は10942円/瓶 毎週1回 皮下注射 24ヶ月間まで

→股関節骨折予防の点でアバロパラチドに優位性はあるが、経済的な負担は約7.8倍であり現実的ではない。。。

 

<この論文の良い点>

・アバロパラチドとテリパラチドを比較して、NVFと心血管系イベントに関して評価した最初のreal-worldな研究。

・傾向スコアマッチングにより2つの集団が似ていた。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

私たちと一緒に学びませんか?

プログラム・募集要項はこちら


昭和大学病院
〒142-8666 東京都品川区旗の台1-5-8
アクセスマップ
電話:03-3784-8000(代表)

[初 診]月曜~土曜 8:00~11:00
[再 診]月曜~土曜 8:00~11:00(予約のない方)
[休診日] 日曜日、祝日、創立記念日(11月15日)、年末年始