炎症性筋炎に対する分枝鎖アミノ酸製剤の効果(多施設共同ランダム化比較試験)について【Journal Club 20221214】

Branched chain amino acids in the treatment of polymyositis and dermatomyositis: a phase II/III, multi-centre, randomized controlled trial

炎症性筋炎に対する分枝鎖アミノ酸製剤の効果(多施設共同ランダム化比較試験)

著者   Naoki Kimura. et al.

掲載雑誌/号/ページ 

Rheumatology, Volume 61, Issue 11, November 2022, Pages 4445–4454

 

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<サマリー>

新規発症のPM/DM患者に対する分枝鎖アミノ酸製剤(BCAA)の追加投与は、MMTの改善に影響を及ぼさなかった。しかし、FI score(動的反復筋機能)の改善において一部有効性が示唆された。

 

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P:新規発症のPM/DM患者

E:BCAAの投与

C:なし(プラセボ)

O:MMTの改善効果

 

<背景と目的>

PM/DMは、骨格筋を侵す自己免疫疾患である。グルココルチコイドや免疫抑制剤は一般的に治療に有効であるが、筋酵素が正常化しても筋機能が損なわれていることが多く、筋機能の残存する障害は、PM/DM患者にとって大きな問題である。分岐鎖アミノ酸(BCAA)には筋萎縮に対する保護作用が報告されており、これまでステロイドミオパチーや筋炎のモデルマウス/ラットにおける報告やPM/DM患者にBCAA投与した症例報告が散在する。今回、炎症性筋炎に対するBCAAの効果・安全性について検討した。

 

<セッティング>

2015年4月から2017年4月まで、日本の23施設で登録された新規の多発性筋炎・皮膚筋炎の患者。

 

<研究デザインの型:RCT、横断研究、前向きコホートなど>

多施設合同二重盲検ランダム化比較試験。第Ⅱ、Ⅲ相臨床試験。

 

<対象患者・組み入れ基準>

Bohan and Peter の基準で診断された新規発症のPM/DM患者。

20歳から75歳。

平均MMTスコアが6点以上9.5点未満

血清CKまたはアルドラーゼ値が正常上限を超えて上昇し、活動性の筋病変がある。

 

<主な除外基準>

6週間以内のTNF阻害剤、アバタセプト、トシリズマブ、ウステキヌマブ、リツキシマブ、エクリズマブ等の生物学的製剤、グロブリン製剤、血漿交換の使用。

PM/DM以外のミオパチー。その他の麻痺がある。悪性腫瘍。重症間質性肺疾患。腎障害のある患者(血清クレアチニン2.0mg/dL以上)。 嚥下障害により治験薬の服用が困難など

 

<治験中の使用薬剤>

①ステロイド

0.75mg/kg/日以上または60mg/日のプレドニゾロンに相当する高用量のGCによる治療。

GCの初期投与量は少なくとも2週間維持され、2週目には初期投与量の20%以内で用量調節が許可され、4週目まで維持された。4週目以降は、2週ごとに10%ずつ減量された。

 

②併用が許可された免疫抑制剤(主治医の判断で2週目から使用許可)

1)メトトレキサート 16mg/週まで

2)アザチオプリン 1~2mg/kg/日

3) シクロホスファミド 50~100mg/日 p.o.または 0.5~1.0g/m2/4weeks div

4)シクロスポリンA (トラフ値を100~150ng/mL)

5) タクロリムス (トラフ値5-10ng/mL)

<主要評価項目>

Primary outcome

12週時点のMMTスコアの変化

(頸部屈筋、頸部伸筋、三角筋、上腕二頭筋、上腕三頭筋、上腕筋、腸腰筋、大殿筋、大腿四頭筋、ハムストリングス)

 

Secondary outcome

筋炎の疾患活動性の評価

筋持久力・動的反復筋機能を評価するFI (Functional index score)の変化

(頭部挙上、両肩関節屈曲、両股関節屈曲の動作、計5か所)

(指示された関節運動を同じテンポで行う能力を評価。最大3分間行い、0-60点で評価max 60点)

 

<治験薬剤の投与方法>

TK-98 1包(4.15g)=リーバクト 1包

(L-イソロイシン952mg、L-ロイシン1904mgおよびL-バリン1144mg)

 

TK-98をグルココルチコイド治療開始時より1日6包、3回に分けて経口投与した。

(肝硬変患者に処方される量の2倍)

(BCAAの投与市販のBCAAの1.4~3.5倍の量)

 

 

TK-98(BCAAsの医薬品名)とプラセボを1:1の割合で無作為に割付。

 

試験は、治験相、移行相、延長相の3相で実施。

 

・治験相は、投与開始(0週)から12週。

・移行期は、12週目から16週

・延長相は、16-28週

 

12週時点の平均MMTスコアが9.5未満の患者を16~28週目の延長相に登録し、長期安全性を評価した。

 

<層別化、盲検化の方法>

疾患(PMまたはDM)、スクリーニング時の平均MMTスコア(<7、<8、<9.5)、施設によって層別化。患者、治験責任医師、施設スタッフは完全に盲検化。

 

<統計解析>

Pearsonのカイ二乗検定およびt検定を用いた。MMTおよびFIスコアは、Newton-Raphsonアルゴリズムと組み合わせた制限付き最尤法に基づく反復測定用混合効果モデルを用いて分析。患者内誤差のモデル化には非構造化共分散構造を用いた。有意性検定は、0.05の両側αを用いた最小二乗平均(LS平均)に基づく。安全性の差の評価にはフィッシャーの正確検定を用いた。

 

<結果>

対象患者のフローチャート(Figure 2)

 

49名の患者をスクリーニングし、そのうち47名が無作為化に登録された。

(サンプルサイズの計算から60名の募集を目指したが、日本医療研究開発機構による支援終了までに達成できなかった。)

TK-98群に24名、プラセボ群に23名が割付けされた。

 

Table1  ベースラインの特徴

 

診断時年齢、罹病期間、性別、病型分類に両群間に有意差はなかった。

ベースラインのMMTスコアは同等であった

[TK-98群7.97(±0.92)、プラセボ群7.84(±0.86)]。

約半数が間質性肺疾患を有しており、多くの症例で免疫抑制剤を併用していた。

 

 

Figure3  主要評価項目の結果(MMTの変化)

 

MMTスコアの平均値の変化はTK-98群とプラセボ群でほぼ同じであり、12週時点のMMTスコアの変化には有意差はなかった

[TK-98群0.70(±0.19) vs プラセボ群0.69(±0.18)]。

TK-98群13名、プラセボ群12名が参加した延長試験(最終的に全員がTK-98を投与された)においても28週時点の平均MMTスコアの変化には両群間に差はなかった。

 

 

Figure 4 副次的評価項目の結果(FI scoreの変化)

 

FI scoreはプラセボ投与群に比べ、TK-98投与群で改善がみられた。

12週時点での5つの動作の平均FIスコアの増加量は、プラセボ群に比べTK-98群で有意に大きかった。

特に肩関節屈曲のFIスコアの12週での改善率は、プラセボ群に比べTK-98群で有意に大きかった[右 27.9(±5.67)対12.8(+5.67), 左27.0 (±5.44) 対 13.4 (+5.95) 〕.

ただしその他の動作では有意な差は見られなかった。

 

 

Table2  安全性

 

有害事象は治験期間中に90%以上の症例で認められたが、両群間に有意差はなく、その多くは高用量GCの使用に起因するものであった。

TK-98投与群では、自殺未遂をした1名の患者が報告された。

(同症例はうつ病の既往があり、高用量GCを開始したことが引き金となったと考えられるが、TK-98の関与は完全には否定できない。)

 

 

<結果の解釈、メカニズム>

本試験は、PM/DM患者の筋力低下に対するBCAAの効果を初めて検討したRCTである。MMTの改善という点では、主要評価項目を達成できなかったものの、FI scoreにおいては、プラセボ群でBCAA群に比べて改善を認めた。

FI scoreは筋持久力を反映したscoreであり、最大筋力を評価するMMTと比べ感度が高いと考えられる。また同試験においてもFI scoreはHAQや患者VASと有意な相関を示しており、BCAA投与によるFI scoreの改善は、臨床的に意義のある結果と考えられる。

 

<Limitation>

本試験ではMMTの改善という主要評価項目は達成できなかった。

MMTが術者の主観による点が大きい

症例数が少ない。(サンプルサイズにより計算された必要症例に届いていない)

自己抗体や病理学的な違いによる検討は行われていない。

FI scoreの有意な改善は肩関節屈曲部のみであった。

 

<どのように臨床に活かす?どのように今後の研究に活かす?>

(臨床)

PM/DM患者にBCAAの投与を勧めることを検討する。(保険適応の薬剤として使用することはできないが、サプリメントとして勧める根拠には十分なり得ると思われる。)

 

(研究)

BCAA以外の筋力増強サプリメント(プロテイン、HMBなど)の効果の検討。

 

<この論文の好ましい点>

PM/DM患者の筋力低下に対するBCAAの効果を初めて検討したRCTである。

主要評価項目では有意な改善は見られなかったが、BCAAによる筋持久力の改善効果は示唆された。

 

<この論文にて理解できなかった点> 

Primary outcomeを達成できなかったとはいえ、臨床試験終了後に論文化までに時間がかかりすぎている点が理解できなかった。

 

 

担当:石井 翔

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