胃管による誤嚥の報告について

Effect of Nasogastric Tube on Aspiration Risk: Results from 147 Patients with Dysphagia and Literature Review

Dysphagia (2018) 33:731–738

Gowun Kim1 • Sora Baek1 • Hee-won Park1,2 • Eun Kyoung Kang1 • Gyuhyun Lee1

 

<サマリー>

誤嚥を起こす患者に対して胃管挿入はよく行われるが、挿入されていても少量の誤嚥は避けられない。唾液に見せかけた1mLの液体を嚥下した際の誤嚥率について調べた論文である。しかし、胃管の有無を比較した際に、誤嚥率に差異はなかった。

 

<Introduction>

安価でシンプルな胃管は経口摂取が困難な人へ使用されている。嚥下障害がある人への誤嚥性肺炎予防で胃管が留置されることもあるが、胃管の誤嚥性肺炎に対する予防的な効果には限界がある。それどころか嚥下の通り道を塞いだり嚥下時間の遅延をさせたりする。

 

以前の研究ではNGTがあることによる誤嚥率の変化はないとされていた。

しかしながら嚥下障害の重症度を考慮はされていなかった。

 

今回の研究の目的は、

  • 少量の液体を嚥下した際に、胃管留置されている方が誤嚥率が上がるのかどうか。
  • 嚥下障害の異なる重症度の患者において、胃管が嚥下機能に影響しているのかどうか。

 

<Materials and Methods>

研究デザイン:

・後ろ向き研究

研究対象:

・韓国の江原大学校 リハビリテーション医学部門における591人の診療録

・2014.1-2015.6での嚥下障害を疑わって嚥下造影検査(VFSS)を施行された人

※研究目的でNGTを留置した人はいない。

 

591人中、NGTを使用した人が221人

221人中、VFSS前にNGTを抜去した人(65)、研究を完遂できなかった人(9)を除外して147人が残った。116人は同施設で挿入、31人は他施設で挿入。

 

<嚥下障害の重症度の評価方法>

VFSSは口腔咽頭〜上部食堂までの構造と機能を評価する方法

VFSSは座位で16Frのシリコン製の胃管を挿入された状態で実施

 

スプーンで液体1mLを口腔内に運び嚥下、胃管を抜去前に一度撮像する。抜去後に再度嚥下して撮像する。1mL液体テスト終了後に、引き続き胃管抜去の状態でバリウムを添加させた様々なもので嚥下機能を測る。2mL液体、5mL液体、ヨーグルト、プリン、固形物、粘稠のある液体。試験後には誤嚥を確認する目的で胸部レントゲン検査を施行している。

 

VFSS後に重症度を評価して患者にあった食事形態を提供するようにした。

重症→経管栄養、中等度→とろみ食、軽症→常食

 

<1mLテストの詳細>

VFSSに精通している2名の医師によって評価された。Penetration-aspiration scale (PAS)という指標を採用。PASはどの程度の深さまで物が入り込んでしまったか、気道から吐き出せたかで決められる。0点が誤嚥なし、8点が最大値で最重症のスコアで咳嗽などなく声帯を通過してしまう状態。これをそれぞれの重症度に合わせて比較をした。

 

PAS-diff = PAS-in – PAS-out

(PAS-diff > 0:胃管があることで誤嚥が増えているということ。)

 

PAS-diff >0とPAS-diff =<0の2つの群に分けた。

2群間の地形的な特徴、嚥下の重症度、認知機能レベル、身体機能レベルを評価した。

 

<認知機能と身体機能>

認知機能を測定するために、韓国版のMMSE (MMSE-K)を使用した。

ADLを測定するために、韓国版のMBI (K-MBI)を使用した。

全対象147名中、MMSE-Kは135人、K-MBIは125人それぞれ調査された。

 

<統計学>

統計解析にはWindowsのSPSS ver 21.0 (IBM)が使用された。

PAS-inとPAS-outの比較にはWilcoxon signed rank testとFriedman testが使用された。

Analysis of varianceを使用して解析したVFSS後の食形態に従ってPAS-diffを分析した。

それぞれの特徴やMMSE-K、K-BMIはChi squareやt検定を用いて解析された。

 

<Results>

◎分布

男性90人、女性57人

最も多い嚥下障害の原因は脳梗塞(65.3%)、次いでParkinson病(10.2%)

食形態は重症度に従うようにしたが、その分布は、

経管栄養59人、とろみ食75人、常食13人

 

◎胃管の有無での分類

胃管挿入時:PAS-inはmean 2.5、SD 2.4

胃管抜去時:PAS-outはmean 2.6、SD 2.58

→P=0.5で有意差なかった。

PAS-diff:mean -0.1、SD 2.53

 

◎食形態による分類

経管栄養を与えられている患者のPAS-in, PAS-outが最も高かった。

PAS-in, PAS-outは食形態の違いでそれぞれ違いでた。

PAS-diffは食形態の違いでそれぞれ違いが出なかった。(P= 0.49)

 

◎PAS-diffによる分類

PAS-diffは性別、年齢、食形態、MMSE-K、K-MBIにおいて差がなかった。

 

<結果の解釈>

・胃管の有無で、誤嚥リスクが上がるのかを評価した。

・今回の研究では、嚥下機能、認知機能レベル、身体機能レベルに関わらず、胃管挿入時と胃管抜去後で誤嚥リスクに差がないとの結果が出た。

 

過去の研究では、

・2mLの液体、2mL半固形態では、嚥下が遅延するものの誤嚥に差はなし

・5mLの液体やとろみ食、食事で誤嚥率に差はなし

→今回の研究で以前までの研究と異なったことはなかった。

 

<limitation>

・嚥下テストをする順番がランダム化されていない

・健常な患者ではなく、経管栄養されている患者のみ対象。

・研究のために胃管を挿入したわけではない。

・運動学的な側面から胃管が妨げる影響を評価していない。

・VFSS後の肺炎は振り返っていない。

 

<臨床・研究への活かし方>

誤嚥の有無を調べる際に、胃管を抜去する必要はない。

(胃管挿入時、嚥下遅延は起こりうる)

 

<この論文の好ましい点>

比較的サンプル数が多い点

唾液を想定した少量の液体で、胃管による嚥下障害を評価していた点

 

<この論文で理解できなかった点>

胃管がどのくらい挿入されていたのかがわからない。

胃管抜去後にVFSS施行されているが、抜去後どのくらいの時間だったのかわからない。

 

担当:矢部祐章

 

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