全身性エリテマトーデスおよび抗リン脂質症候群における続発性血栓性微小血管症、補体の役割およびエクリズマブの使用          【Journal Club 20230823】

Secondary thrombotic microangiopathy in systemic lupus erythematosus and antiphospholipid syndrome, the role of complement and use of eculizumab: Case series and review of literature

『全身性エリテマトーデスおよび抗リン脂質症候群における続発性血栓性微小血管症、補体の役割およびエクリズマブの使用:症例シリーズと文献レビュー』

著者:Nina Kello1, Lara El Khoury, Galina Marder, Richard Furie, Ekaterini Zapantis, Diane Lewis Horowitz
Donald and Barbara Zucker School of Medicine at Hofstra/Northwell, 865 Northern Boulevard, Suite 302, Great Neck, NY 11021, USA
出典:Seminars in Arthritis and Rheumatism 49 (2019) 7483

<サマリー>
全身性エリテマトーデス(SLE)や抗リン脂質抗体症候群(APS)の合併症である血栓性微小血栓症(TMA)の治療法に確立されたものはない。補体の活性化はSLEやAPSによる二次性のTMAの病態形成に大きな役割を果たしている。SLEまたはAPSに合併した難治性の二次性TMAに対しエクリズマブによる治療をした9例を含むケースシリーズを報告する。

<背景>
補体経路の遺伝子変異によるものはatypical HUS(aHUS)や二次性HUSがあり、二次性のものは悪性腫瘍・感染症・自己免疫疾患など様々な病態により誘発される。自己免疫疾患にはSLEやAPSが含まれるが、それらに関連した二次性のTMAに対して、現在治療推奨はなく、基礎疾患の管理として抗凝固薬、グルココルチコイドが使用され、難治性のものでは血漿交換やIVIGが用いられてきた。しかし、これらの治療ではTMAを効果的に阻止できないこともある。FurieらによるSLEを対象としたエクリズマブの第一相試験以来難治性ループス腎炎、APSの治療にエクリズマブが有効であったという報告がある。(表5を参照)今回SLE/APS合併の難治性TMAに対しエクリズマブを投与し有効であった9例を含むケースシリーズを報告する。

<セッティング>
・2010年から2018年にかけて、NYにあるNorthwell Healthの2病院、3診療所における21-59歳のSLE/APSによる二次性TMAに対しエクリズマブを投与された女性患者(SLE:7名(ループス腎炎:3名)、APS:6名、SLE/APS合併:4名)
・TMA発症前に溶血性貧血は起こしておらず、APS患者で若干の血小板減少をみとめた。TMA発症前の原疾患の罹患歴は3か月から11年であった。治療としてはステロイドパルス→PSL大量療法(6例)、ステロイド大量療法1㎎/㎏(3例)、血漿交換(7例)、抗凝固療法(5例)、シクロフォスファミド(3例)、リツキシマブ(2例)で加療されていた。
・TMAの診断からエクリズマブの使用期間は2-3週間から6か月であった。
・TMA診断時にはADAMTS13正常値、血小板減少、破砕赤血球を認めた。9例中7例で急性腎障害を発症しており、全例が腎生検を受けた。5名でTMA病態が観察され活動性のループス腎炎も認めた。

<研究デザイン>後ろ向きコホート研究

<Populationおよびその定義>
・SLE,APSはACRの分類基準と札幌基準シドニー改変が用いられた
・TMAの診断は貧血(Hb<13g/dl)、LDH>200、ハプトグロビン<30mg/dL以下、直接クームス試験陰性、末梢血塗抹標本の2/HPF以上の破砕赤血球の存在
 重要臓器病変としては
 (i) 腎病変:血清クレアチニン上昇、eGFR低下があり、腎生検で毛細血管および動脈壁の肥厚、内皮細胞増殖、フィブリン血栓、破砕赤血球があるもの。
 (ⅱ)神経病変:脳血管イベント
 (iii)急性冠症候群を含む心臓病変:心エコー所見に基づく、急性冠症候群または心筋症
 (iv)皮膚病変:皮膚血管炎および壊死を含む皮膚病変。
 (ⅴ)肺病変:びまん性肺胞出血
 と定義された
・SLE/APSにTMAを合併した患者で従来の治療に抵抗性であった10例にエクリズマブの添付文書通りにワクチン接種などを行った上でエクリズマブを投与した。導入用量は900mgを4週間毎週投与、維持療法として1200mgを2週間ごとに投与し、血漿交換後には600mgを追加投与した。
・ひとりの患者は重度の疾患活動性で臓器障害も酷く、治療目的というよりは再発予防目的にエクリズマブを導入されたので、以降の解析からは除外された。

<主なアウトカム、その定義>
・2,4,12,24,36週時点での血液検査
・血小板数、(b)溶血の指標(ハプトグロビン)(c)腎機能(クレアチニン、eGFR)で改善化率(25%、50%、75%、正常化)で判断した

<結果>
・SLE/APSの標準的な治療にも関わらずTMAを発症した9例に対し、エクリズマブを投与した。そのうち3名はすでに血液透析を必要としていた。7例の血漿交換は(3-7回施行)施行。
・エクリズマブの平均投与期間は6.6か月。最長で1人5年間継続している方もいる。

・血小板について
エクリズマブ投与1週間以内に血小板の改善がみられた
4週目には全例で25%の改善がみられた。6名の患者では平均5.4週で血小板が正常値まで回復した。
・LDHについて
6名の患者で4週以内に75%以上の改善を示した
・ハプトグロビンについて
6名の患者で4週以内に75%以上の改善を示した
・腎機能について
急性腎障害のあった7名のうち4週間後に4名の患者でeGFRが25%改善し、3名の患者でタンパク尿が減少した
(2週間以内にeGFRが25%改善された患者は追跡期間中も腎機能の改善を維持する傾向にあった)
腎機能が完全に回復した人はいなかったが、血液透析導入された3名中2名で血液透析を中止することができた。(エクリズマブ投与1か月後と10か月後)
エクリズマブの早期投与が急性腎障害の完全回復にはつながらなかったが、新規発症ループス腎炎患者の全例で腎機能は改善した。
・心・血管について
血栓塞栓症を発症した2名に関してはエクリズマブ投与後血栓イベントの進行、追加はなかった。心筋症を発症した1例に関しては1か月以内にEF30%→50%に心機能が改善した。

・また、エクリズマブ投与中にTMAが再発した人はいなかった。また、エクリズマブ投与終了後のTMAの再発もなかった。
投与終了後の調査期間中の無病生存期間は1か月から30か月と様々であった。
・重大な有害事象は30%で起こった。死亡2例と化膿性関節炎1例であった。死亡2例の内訳は末期腎不全であったが、透析を拒否した方。頭蓋内出血(剖検でも動脈瘤や血栓症は見つからなかった。)を発症した方であった。いずれも、エクリズマブ投与とは無関係と考えられた。

<Limitation>
・SLE/APS患者の数も少なく、それにTMAが続発する症例も稀であったことから大規模な調査が困難(母体数が少なく、前向き試験は難しい)
・aHUSの半数で同定されている遺伝子変異を測定していない。→補体(H因子、I因子、B因子)、CD46、C3、トロンボモジュリン(SLEの増悪にも関与しているかもしれない)

<この論文の好ましい点>
SLE/APS合併TMAに関し標準治療で治療が困難であった場合でもエクリズマブが次の選択肢の1つである可能性を示している。

<問題点>
・日本人にこの報告が当てはまるか。
・日本では保険適応でないため、使用するには相当な困難を強いられる。

担当:山本貴恵

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