グルココルチコイド漸減中のリウマチ性多発筋痛症の再発に対するサリルマブの効果:SAPHYR trial【Jounal club 2023/10/25】

Sarilumab for Relapse of Polymyalgia Rheumatica during Glucocorticoid Taper
グルココルチコイド漸減中のリウマチ性多発筋痛症の再発に対するサリルマブの効果
N Engl J Med 2023;389:1263-72. DOI: 10.1056/NEJMoa2303452

 

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P:ステロイド治療抵抗性PMR
E:サリルマブ(用量200mg)と14週間のプレドニゾン漸減を併用
C:プラセボとプレドニゾン漸減を併用
O:52週時点での持続寛解
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<セッティング>
17カ国60施設で実施

<研究デザインの型>
第3相多施設共同無作為化二重盲検プラセボ対照試験

<Population、およびその定義>
2012年のリウマチ性多発筋痛症の暫定分類基準を満たす患者を対象
スクリーニング前12週間以内にグルココルチコイド漸減(1日7.5mg以上またはプレドニゾン相当量)中に少なくとも1回の疾患再燃エピソードがあり、少なくとも8週間のグルココルチコイド投与歴(1日10mg以上またはプレドニゾン相当量)がある。全例がリウマチ性多発筋痛の症状を有し、スクリーニング前12週間以内にESRが30mm/時以上、またはCRP値が10mg/L以上
除外:巨細胞性動脈炎、関節リウマチ、その他の炎症性関節炎の診断を受けた患者は試験

<主な要因、および、その定義>     
サリルマブ(用量200mg)+14週間のプレドニゾン漸減

<Control、および、その定義>
プラセボ+52週間のプレドニゾン漸減

両群ともにメトトレキサート(週15mg以下)の投与は、ベースライン前および試験期間中少なくとも3ヵ月間安定した用量であれば許可された。

<主なアウトカム、および、その定義>
⬛︎主要評価項目
52週時点の持続寛解
定義:12週目までに臨床的寛解(PMRの徴候および症状が消失し、CRP値が10mg/L未満に正常化)、かつ12週目から52週目までに疾患再燃がなく、CRPが持続的に正常化し、プレドニゾンの漸減レジメンが遵守されたことと
再燃の定義:活動性PMRによる症状の再発またはESRの上昇により、グルココルチコイドの投与量が増加すること
*サリルマブはCRPに直接影響するため、CRPの測定は盲検化された方法で行われ、検体は寛解持続のアウトカムの構成要素として中央で処理された。
*ESRの測定は行われ、疾患再燃のモニタリングに使用
*二重評価者アプローチ
*治験依頼者と有効性評価者はベースライン後のCRPとESRの値を知らない

⬛︎副次的アウトカム
寛解持続の各要素、52週間のグルココルチコイド累積投与量、臨床的寛解後の最初の疾患再燃までの期間、複Glucocorticoid Toxicity Indexのスコア(0から538まであり、スコアが高いほど毒性作用が強い)、安全性
疾患活動性スコア(PMR-AS)、医師による疾患活動性-visual analogue scale(MD-VAS)のスコア、薬力学(すなわちCRP値の変化)、Medical Outcomes Study 36-Item Short-Form General Health Survey(SF-36)の身体的および精神的要素スコア、European Quality of Life-5 Dimensions(EQ-5D-3L)スケールの単指数効用尺度のスコア、Functional Assessment of Chronic Illness Therapy(FACIT-fatigue)の疲労尺度のスコア、Health Assessment Questionnaire Disability Index(HAQ-DI)のスコアなどのQOLおよび全般的障害の評価

<解析方法>
目標登録患者数は280人
2020年7月、コロナウイルス感染症2019(Covid-19)の大流行により募集が長期化
統計学的有意水準が0.01から0.05に変更
αレベルを0.05、各群59例の登録、主要転帰における群間差25%を検出する検出力が少なくとも85%、30%の差を検出する検出力が少なくとも95%
主要アウトカムである52週目の持続寛解は、各群の数と割合でまとめられ、Fisherの正確検定により解析

<結果>
2018年10月から2020年7月までに、合計118人の患者が無作為化を受けた(サリルマブ群60人、プラセボ群58人)
サリルマブ群の1人は割り付けられた薬剤を受けなかった。
合計78例の患者が治療を完了した(サリルマブ群42例、プラセボ群36例)
試験中止の最も多い理由:サリルマブ群では有害事象(7例)、プラセボ群では有効性の欠如(9例)であった

表1. ベースライン時の患者の特徴
 両群のベースライン時の患者の特徴は概ね類似
 患者の年齢中央値は69歳、70%が女性、83%が白人
 PMRと診断されてからの間隔は、全体の中央値で300日(単純範囲、66〜3992日)

[52週目の持続的寛解]
サリルマブ群で28%(60例中17例)、プラセボ群で10%(58例中6例)差、18%ポイント;95%信頼区間[CI]、4~32;P=0.02)
CRP値とESR値を除外した感度分析:52週目の持続寛解はサリルマブ群で32%(60例中19例)、プラセボ群で14%(58例中8例)で(差、18%ポイント;95%CI、3~33)
寛解持続の個々の要素はすべてサリルマブ群に有利
メトトレキサートを併用した患者では、52週目にサリルマブ群では12例中3例(25%)に、プラセボ群では17例中2例(12%)に持続寛解が認められた

[グルココルチコイド累積投与量]
52週目までのグルココルチコイド累積投与量の中央値は、サリルマブ群で777mg(四分位範囲:777~1018)、プラセボ群で2044mg(四分位範囲:1950~2840)であった(P<0.001)。

[疾患再燃と救援療法]
12週後の臨床的寛解はサリルマブ群60例中41例(68%)、プラセボ群58例中30例(52%)。
臨床的寛解後の疾患再燃はサリルマブ群で41例中10例(24%)、プラセボ群で30例中17例(57%)。
治療中、サリルマブ群では60例中19例(32%)に、プラセボ群では58例中34例(59%)にレスキュー療法。

[生活の質]
サリルマブ投与群はプラセボ投与群に比べ、SF-36の身体的・精神的項目、EQ-5D-3Lの単単位効用尺度、FACIT-fatigue、HAQ-DI、MD-VASのベースラインから52週目までの最小二乗平均変化量が良好。

[グルココルチコイド毒性指数と疾患活動性]
グルココルチコイド毒性指標では、52週間の治療期間中の累積病勢悪化スコアのベースラインからの変化量の最小二乗平均は、サリルマブ群で52.32、プラセボ群で57.22であった(差、-4.90;95%CI、-23.48~13.67)。

[CRPの変化]
52週目の平均CRP値はベースラインからサリルマブ群で6.9mg/dl、プラセボ群で1.7mg/dl減少した。

[安全性]
好中球減少症(15% vs プラセボ群0;未調整P<0.05)、関節痛(15% vs 5%)、下痢(12% vs 2%)、不眠症(10% vs 16%)、高血圧(10% vs 3%)、変形性関節症(10% vs 9%)。
治療中止に至った有害事象は、サリルマブ群では59例中7例(12%)、プラセボ群では58例中4例(7%)に認められ、主にサリルマブ群で好中球減少症の発生率が高かったことが原因であった。好中球減少に関連した感染症はなかった。1人の患者では好中球減少症のためサリルマブの投与量が2週間ごとに150mgに減量されたが、その程度は軽く、22日以内に回復した。両群とも死亡例は報告されなかった。グレード別の重篤な有害事象、特記すべき有害事象、好中球減少は表S8、S9、S10に示す。治療後の有害事象はサリルマブ群で59例中4例(7%)、プラセボ群で58例中7例(12%)に報告された。治療後の重篤な有害事象はサリルマブ群で59例中2例(3%)、プラセボ群で58例中1例(2%)に報告された。

<結果の解釈・メカニズム>
これまでの研究で、インターロイキン6の遮断がリウマチ性多発筋痛症の治療に臨床的に有用であることが示唆されている。ヒトモノクローナル抗体であるサリルマブはインターロイキン-6受容体αと結合し、インターロイキン-6経路を効率的に遮断する。

<好ましい点>
TCZの試験との比較
PMR-SPARE試験:新規発症PMR39人を対象とした16週間の試験
SEMAPHORE試験:グルココルチコイドを10mg以下に漸減している間に再発した患者101人を対象とした24週間の試験
これらの試験では、主要評価項目に関して有効性が示された。
両試験とも期間は短く、トシリズマブ投与群ではQOLの改善はみられなかった。
SEMAPHORE試験では、主要評価項目にグルココルチコイド治療の完全中止は含まれておらず、トシリズマブ投与患者の51%が24週目の有効性解析の時点でもグルココルチコイドを投与されており、その平均累積投与量は1380mgであった

<Limitation>
・Covid-19の大流行により早期に終了したこと、これによりサンプルサイズと統計的検出力が減少
・試験のプロトコールでは、臨床検査値に異常のある患者においてサリルマブの投与量を200mgから150mgに減量することが認められていたが、この減量は1人の患者にしか行われなかった。従って、リウマチ性多発筋痛症患者におけるサリルマブ150mg投与の有効性、安全性については結論を下すことはできない。
・サンプル数が少ないため、安全性データベースは限られている。

<どのように臨床に活かす?どのように今後の研究に活かす?>
治療抵抗性PMRの治療選択肢の一つ(保険適応なし)

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