Risk of severe infection associated with immunoglobulin deficiency under rituximab therapy in immune- mediated inflammatory disease
RTX使用の自己免疫疾患患者の低ガンマグロブリンは重症感染症のリスクになるか?
Claire Rempenault, Cédric Lukas, Léa Tardivon, Claire Immediato Daien, Bernard Combe, Philippe Guilpain
Rheumatology, CHU Montpellier, Montpellier, France
RMD Open 2024;10:e003415. doi:10.1136/rmdopen-2023-003415
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<サマリー>
少なくとも1回のRTX投与を受けた自己免疫疾患患者(n=311人)の中で14.5%が重症感染症に罹患した。重症感染症のリスクは慢性肺疾患、GC投与量、DAS28であり、Ig低値と感染は関連が見られなかった。
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P:少なくとも1回のRTX投与を受けた自己免疫疾患患者
E:①投与前からIg低値 ②投与後のIg低値
C:Ig正常値
O:重症感染症
<背景>
・RTX開始前にIgG欠乏症であったRA患者では、重篤な感染症のリスクが増加したことを示すいくつかのエビデンスがあるが、RTX投与中の後天性Ig低値での重篤な感染症のリスクは明確に確立されていない。
・他の自己免疫疾患患者のためにRTXを受けている患者では、安全性に関するデータは限られており、ほとんどの研究は限られた患者数を対象としており、結果は不一致である。
・エビデンスが乏しいため、投与前からIgG低値または後天性IgG低値を呈するRTX治療を受けた自己免疫疾患患者における重症感染症のリスクを評価
<研究デザインの型>
・後ろ向き観察研究
・追跡期間:最後のRTX投与から12ヵ月後まで、RTX投与後12ヵ月以内に重篤な感染症または死亡が発生するまで、あるいは試験終了(2020年5月31日)まで
<セッティング>
・フランスの単施設
<Population、およびその定義>
・1回でもRTXの投与をうけた自己免疫疾患患者
<主な暴露、および、その定義>
以下の3つの患者群に分類
・RTX投与前Ig低値:RTXの初回投与前からIg減少患者
・RTX投与後Ig低値:RTXの初回投与前に正常であったが追跡期間中に少なくとも1回のIg欠乏症を呈した患者
・正常群:投与前および投与後もIg正常値の患者
・低Igの定義:IgG<650mg/dL、IgA<7mg/dl、IgM<3mg/dL、ガンマグロブリン<600mg/dl。
・超低Igの定義: IgG<500mg/dl、IgA 5mg/dl、IgM<2mg/dl、ガンマグロブリン<400mg/dl
<主なアウトカム、および、その定義>
・プライマリ:重症感染症
※定義:入院した感染症、抗菌薬注射を必要とした感染症、死亡に至った感染症
<解析方法>
・単変量解析(カテゴリー変数についてはχ2検定またはフィッシャーの正確検定、連続変数についてはMannWhitney検定)
・Coxモデルを用いた多変量解析により、全患者および各群について重症感染症のリスク因子を同定
・低Igのタイプ(RTX投与前Ig低値、RTX投与後Ig低値)、追跡調査終了時のIg低値、追跡調査終了時のIg著明低値の場合、追跡調査終了時のガンマグロブリン、またはIgG、IgM、IgAのレベルなど、制限された集団に対して交絡因子候補のコントロールのために、複数のCox比例ハザードモデルを作成
・Igレベルを時間依存変数とした時間依存分析
<結果>
「背景」
・311人の患者
・女性80.7%、平均年齢57.9(12.5)歳
・疾患構成:RA(85.9%)、SLE(4.2%)、AAV(2.6%)
・平均罹病期間は13.4年
・約3分の2の患者がcsDMARDs(ほとんどがMTX(39.3%))を併用
・半数以上の患者がベースライン時にGC投与され、16%がプレドニン換算で15mg/日以上
・RTX初回投与前に少なくとも1種類の免疫抑制剤を投与は、14%で、そのうち4.5%はRTX投与後も継続
・RTX施行前12ヵ月以内に重症感染症の既往は20例(6.5%)
・約40%の患者は初回RTX投与前にリンパ球減少あり
・ベースライン時の自己免疫疾患活動性は中等度
・追跡:平均66.6ヵ月(84ヵ月)
「RTX治療下におけるIg低値の危険因子」
・Ig低値は、103例(33.1%)
・RTX投与前Ig低値:33人(10.6%)
・追跡調査終了時にIgGが400mg/dL未満は4例
・ベースライン時のGC併用療法は、Ig低値者では多い
・269人の患者はRTX開始時にIg値が正常であった。
・61人(22.7%)は、最初のRTX投与後にIg欠乏症を呈し、主にIgM(16.3%)でRTX投与後Ig低値の定義を満たした。
・追跡調査終了時の平均ガンマグロブリンは690mg/dl、平均IgGは7.2±1.8mg/dl
・追跡調査終了時にIgG<400mg/dLは2例のみ
・単変量解析では、RTX投与前Ig低値は、RTX累積投与量(p<0.001)、疾患(特にSLE(p=0.15))、ベースライン時の免疫抑制剤(p=0.15)またはGC(p=0.18)の併用、糖尿病(p=0.06)、肥満(p=0.06)と関連する傾向
・RTX投与後Ig低値はRTXに対する良好な反応性と関連
「重症感染症の発生率および重症感染症に関連する危険因子」
・追跡期間中、RTX投与後12ヵ月以内に重症感染症発生した患者は45/311人(14.5%)であり、100人年当たり2.8人
・重症感染症は最後のRTXサイクルから中央値で6ヵ月後に発生
・2/3はcsDMARDとの併用療法、約42%はGC療法併用
・重症感染症の内訳は、肺炎、尿路感染症、軟部組織感染症
・重症感染症に関連した死亡例はなかった。
・単変量解析(表3)では、最後のRTX注入後12ヵ月以内の重症感染症のリスクは、慢性肺疾患、免疫抑制剤による前治療、免疫抑制剤による併用治療、GC併用、追跡期間中のGCの1日投与量、追跡期間中の疾患活動性、CRP値、追跡期間終了時の免疫抑制剤もしくはGCによる治療と関連
・多変量解析(表4)では、重症感染症の発生は、慢性肺疾患の存在、GCの平均投与量、追跡期間中のDAS28CRP(モデル1)と関連。Ig低値は、Ig低値のタイプ(RTX投与前Ig低値 v s後RTX投与後Ig低値、モデル1)、Ig低値(モデル2)またはIg著明低値(モデル3)のいずれも重症感染症のリスクと関連なし
「Igカテゴリー別の重症感染症発生率」
・感染症の粗発生率は、正常Igでは、3.0/100人年、RTX投与前Ig低値(n=33)では5.5/100人年、RTX投与後Ig低値(n=61)では1.2/100人年であり、RTX投与前Ig低値で高かった。
・RTX投与前Ig低値およびRTX投与後Ig低値は、調整後の感染症リスクを関連は見られなかった(それぞれ調整HR 1.0(95%CI 0.4~2.5)、調整HR 0.4(95%CI 0.1~1.3))
・Ig値の状態(正常/低)を時間依存変数とした解析では、RTXを受けている患者において、重篤な感染症のリスクは、RTX投与前Ig低値またはRTX投与後Ig低値とは関連なし(調整HR 1.04(95%CI 0.5~2.3)、p=0.92)。
<Limitation>
・情報バイアスとデータの欠落
・RTX治療患者の免疫グロブリンをチェックするための標準化されたプロトコールがない
・IgG著明低値のカットオフが400mg/dlが不適切であった可能性
・入院や抗菌薬注射をどのような患者に用いたのか主治医の判断
・さまざまな疾患が対象となっているために、臨床には応用しづらい
・予防投与の情報がない
<研究の強み>
・現在膠原病診療においてRTXを受けている疾患をよく代表していること
・RTXの長期耐容性を観察することができる長期追跡期間
<メカニズム>
・多くの疾患が含まれていたこと
・IgGのカットオフが高めであった可能性
・RTXの初回投与前に正常であったが追跡期間中に少なくとも1回のIg欠乏症を呈した患者としたためにその後上昇した患者さんも含まれる
<どのように臨床に活かす?どのように今後の研究に活かす?>
・今回抽出された肺病変、GCについては、以前から言われているものであり、減量対処可能である
担当:矢嶋宣幸