全身性強皮症におけるトシリズマブ:第3相試験【Journal Club 20201118】

Tocilizumab in systemic sclerosis: a randomised, doubleblind, placebo-controlled, phase 3 trial
全身性強皮症におけるトシリズマブ:無作為化、二重盲検、プラセボ対照、第3相試験

Dinesh Khanna et al. University of Michigan, Ann Arbor, MI, USA

Lancet Respir Med 2020;8:963-74


<サマリー>
IL-6はSSc患者で上昇し、皮膚硬化やSSc-ILDの発症と関連している。
SScに対するトシリズマブの第2相試験 (faSScinate試験)ではトシリズマブの有効性が示唆された。したがって、トシリズマブのmRSSの変化に対する効果、副次的評価項目として肺機能への影響を評価するために、第3相ランダム化比較試験(focuSSced試験)が実施された。
結果としては、primary endpointであるmRSSの改善は有意差を認めなかった。Secondary endpoint であるFVC%のベースラインからの変化の分布のシフトは、トシリズマブが有効性を示した。

<セッティング>
期間:2015年11月20日~2017年2月14日
場所:ヨーロッパ、北米、中南米、日本の20カ国の75施設

<研究デザインの型>
多施設共同
無作為化二重盲検プラセボ対照
第3相試験

<Population,およびその定義>
・2013年のACR/EULARの基準に基づき分類された全身性強皮症患者。
・発症期間が60ヶ月以内(最初のレイノー以外の症状出現から)
・スクリーニング時の修正ロドナン皮膚スコア(mRSS)が10~35単位である成人
・炎症反応上昇(CRP≥6 mg/L、ESR ≥28 mm/h、Plt≥330×10⁹/Lのうち少なくとも一つ)
・疾患活動性がある(以下のうちから1つ以上):疾患期間18ヶ月以下、mRSSが3単位以上増加しているか、新しい部位で2単位増加する、過去6か月以内に新しい部位が2か所障害される、もしくはfriction rubが1回以上あること
・予測FVC%が55%以下、またはDLCOが予測の45%以下の肺疾患を有する患者は除外された。

<主な要因、およびその定義>
トシリズマブ皮下注162㎎/week

<Control、およびその定義>
プラセボ投与群(前半48Wはプラセボ、後半48WはTCZ投与)

<主なアウトカム、およびその定義>
・primary endpoint: mRSSのベースラインから48週までの変化
Secondary endpoint
   FVC%のベースラインから48週目までの変化
   mRSSの改善が認められた参加者の割合の違い(20%以上。≥48週目に40%以上、60%以上)
   治療失敗までの時間(治療開始から死亡までの時間、予測されるFVC%の低下が10%以上、mRSSの相対的な上昇が20%以上
   mRSSポイントが5以上、またはSScに関連した事前に定義され、診断された重篤な合併症の発生と定義)
   健康評価質問票-障害指数
・Exploratory endpoint
   FVC実測値・FVC%予測値が10%以上低下した患者の割合
   24週目のFVCの変化
   DLCOの変化、および48週目のDLCOが少なくとも15%低下した割合
   48週目のHRCTで最も障害されている肺葉の線維化の程度(QLF-LM)
   American College of Rheumatology provisional Composite Response Index in Systemic Sclerosis(ACR-CRISS)
   高分解能CT定量的肺線維症-全肺(QLF-WL)および定量的間質性肺疾患-全肺(QILD-WL):
   事後分析された間質性肺疾患は、胸部放射線科医(JG)が、全身性硬化症の診断アルゴリズムを用いて、SSc-ILDをすりガラス状陰影、または肺底部優位の肺線維症、あるいはその両方の存在と定義した。

<解析>
ITT解析

<結果>
Figure1
2015年11月20日から2017年2月14日までの間に343人をスクリーニング。343人中131人(38%)が不適格であった。212人が採用され、無作為に割り付け、107人を週1回の皮下プラセボ投与群、105人をトシリズマブ162mg投与群に割り付けた。プラセボ群107人のうち93人(87%)、トシリズマブ群105人のうち95人(90%)が48週間の評価を完了した。
Table1
参加者のほとんどが女性であり(210人中171人[81%])、平均年齢は48.2歳であった。疾患期間の中央値は2年未満で、皮膚病変は中等度から重度で、ベースラインの平均mRSSはプラセボ群で20.4、トシリズマブ群で20.3であった。ベースラインでの肺機能障害は正常~軽度であった。予測される平均FVC%はプラセボ群で83.9 、トシリズマブ群では80.3であった。DLCOはプラセボ76.8、TCZ74.4であった。210人の参加者のうち、136人(65%)にHRCTでSSc-ILDを認めた。
48週目までに、プラセボ群106名中22名(21%)、TCZ群104名中9名(9%)が免疫調節療法を開始した。ほとんどの参加者(プラセボ群22名中14名(64%)、トシリズマブ群9名中4名(44%))が36週目以降に免疫調節療法を開始された。
Table2
トシリズマブ投与群とプラセボ投与群の主要評価項目である48週目におけるmRSSのベースラインからの変化は達成されなかったが、TCZで治療された患者は48週目に皮膚硬化症が数値的に大幅に減少した。mRSSのベースラインから48週までのLSM(the least square mean)の変化は、プラセボ群で–4.4、TCZ群で–6.1だった。
Figure2
48週目の健康評価質問票障害指数、患者及び医師のVASなどではプラセボとトシリズマブの間に差は認められなかった。
Figure3 
ベースライン時にSSc-ILDを有する参加者で、プラセボ群56人中14人(25%)、トシリズマブ群59人中5人(9%)で、48週目までのFVCの絶対値が10%以上低下していた。
Table3
QLF-LMの解析、およびQLF-WLとQILD-WLの事後解析では、トシリズマブ投与群では肺線維症の数値的な改善が示された。
Figure4
治療失敗までの時間のカプランマイヤー解析では、無調整解析ではプラセボよりもトシリズマブの方が有利であったが、ベースラインの調整を行った場合この所見は見られなかった。
Table4
48週間の追跡期間中、ほとんどの参加者が少なくとも1つの有害事象を経験した。両群で最も頻繁に報告された有害事象は感染症と感染症であった(プラセボ群では106人中53人[50%]、TCZ群では104人中54人[52%])。重篤な有害事象は、プラセボ群では106人中18人(17%)に30件報告されたのに対し、トシリズマブ群では104人中13人(13%)に14件報告された。試験中に4名の参加者が死亡した:プラセボ群3名(慢性心不全、心筋炎、心筋梗塞)、トシリズマブ群1名(原因不明);いずれのイベントも試験治療に関連したものとは考えられなかった。

<結論>
主要評価項目であるmRSSのエンドポイントは満たさなかった。
副次評価項目であるFVC%予測値の結果は、トシリズマブが初期のSSc-ILDで急性期反応物質が上昇した患者において肺機能を維持する可能性があることを示している。

<Limitation>
・強皮症の不均一性やプラセボの影響
・mRSSを主要評価項目とすること
・肺病変に関しては、軽症例が主に対象となっていること。
・DLCOの測定法
・48週以降はどうなのか?

<どのように臨床に生かすか、どのように今後の研究に活かす?>
発症早期の炎症がある強皮症患者の間質性肺炎に対してTCZが有効である可能性がある。

担当:小西 典子

 

 

 

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