自己免疫性疾患患者におけるCOVID-19ワクチンの免疫原性と安全性について:多施設共同研究【Journal Club 20210825】

Immunogenicity and safety of the BNT162b2 mRNA COVID-19 vaccine in adult patients with autoimmune inflammatory rheumatic diseases and in the general population: a multicentre study

著者 Victoria Furer , et al.
掲載雑誌/号/ページ
Annals of the Rheumatic Diseases 2021 Jun 14; annrheumdis-2021-22064

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<サマリー>
mRNA BNTb262 ワクチン(ファイザー社 コロナワクチン)は,自己免疫性疾患患者の大部分において免疫原性を示し,安全性も許容内であった.グルココルチコイド、リツキシマブ、MMF、アバタセプトによる治療はワクチンによる免疫原性を有意に低下させた。
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<背景>
現在、COVID-19の世界的な流行が問題となっている。mRNAワクチンであるBNT162b2は高い有効性、安全性を示している。
自己免疫性疾患患者はCOVID-19のリスクを軽減するためにワクチンを接種することが推奨されているが、同集団に対する有効性と安全性に関するデータは少ない。そこでBNT162b2 mRNAワクチンの自己免疫性疾患患者に対する免疫原性、有効性、安全性を評価するために、大規模な前向き観察多施設試験を実施した。

P:自己免疫性疾患患者(AIIRD患者)
E:BNT162b2 mRNAワクチンの接種
C:なし
O:ワクチンの免疫原性と安全性を評価(対照群と比較)

Secondary outcome
①ワクチンの免疫原性に対する免疫抑制治療の影響
②ワクチン接種の有効性(PCR検査で確認されたCOVID-19の感染の有無)
③AIIRD患者におけるワクチン接種の安全性
④AIIRD患者の臨床的疾患活動に対するワクチン接種の効果

 <ワクチン接種の方法>
1回あたり30μgのBNT162b2 mRNAワクチン(Pfizer-BioNTech社製)を3週間間隔で三角筋に筋肉内注射し、2回投与した。

<ワクチンの免疫原性>
2回目のワクチン接種から2~6週間後に,LIAISON(DiaSorin社)定量法を用いて,SARS-CoV-2三量体スパイクS1/S2糖タンパク質に対する血清IgG中和抗体レベルを測定。DiaSorin社のプロトコルに従い、15単位(BAU)以上の値を陽性とした。

<ワクチンの有効性>
各ワクチン接種後にCOVID-19感染に罹患したかどうかを質問し、PCR法で感染の有無を確認した。また全データを採取するまでの間のデータ、ファイルで感染の有無を確認した。

<ワクチンの安全性>
1回目のワクチン接種後2週間以内、2回目のワクチン接種後2~6週間以内に参加者に電話で連絡し、有害事象に関するアンケートを実施した。

<自己免疫性疾患の活動性評価>
病歴と薬の使用状況、疾患活動性を記録した。
ワクチン接種前の疾患活動性はワクチン接種前の3ヶ月以内の患者の医療記録で評価した。
ワクチン接種後の疾患活動性は2回目のワクチン接種後2~6週間以内に評価した。

 <統計解析>
継続変数間の差は独立-サンプル t 検定を用いた。カテゴリー変数間の差は,χ2 検定または Fisher’s exact 検定を用いた。多変量モデルは、年齢、診断名、メトトレキサートの使用、抗CD20抗体の使用で調整した。欠損データは無作為に欠損したものとした。データはR V.4.0.5を用いて分析した。

<結果>
対象患者(Table 1)
AIIRD患者710名と対照者124名を対象とした。血液検査値の欠損などにより最終的な解析対象者はAIIRD患者686名と対照者121名となった。
RAが最も多く(n=263)、次いでPsA(n=165)、SLE(n=101)、全身性血管炎(n=70)、axSpA(n=68)、IIM(n=19)の順に多かった。
AIIRD患者は65歳以上の高齢者の割合が32.8%であり、平均年齢が対照群に比べて有意に高かった。(56.8±14.9歳 vs  50.8±14.7 歳)

疾患と免疫抑制薬の使用状況(Table2)
AIIRD群の95.2%(n=653)が免疫抑制薬を使用していた。
グルココルチコイド(GC)は19.0%(n=130)に使用、プレドニゾロン使用者の平均投与量は6.7 mg/日。(SLEでは21.8%しか使っていない様子)
csDMARDの単剤投与は23.2%(n=159)。
生物学的製剤の単剤使用は38.2%(n=262)。
生物学的製剤とcsDMARDの併用は13.6%(n=93)。
JAK阻害剤は6.9%(n=26)。
抗CD20療法は12.7%(n=87)。(リツキシマブ 66例、オクレリズマブ 1例)
(リツキシマブはIIM、AAVで特に使用されている。RAでも16.3%と比較的高頻度)
リツキシマブは平均1656 mgで投与されていた。
リツキシマブの最終投与からワクチン接種までの平均間隔は51±83日であった。
※試験期間中の免疫抑制薬の変更は、1回目のワクチン接種後で3%(n=20)、2回目のワクチン接種後は4.04%(n=27)報告された。

疾患毎のBNT162b2ワクチンの免疫原性(抗体陽性率)(Table 3)
AIIRD群の抗体陽性率は86%(n=590)で、対照群の100%に比べて低かった(p<0.0001)。またAIIRD群の抗体価のレベルは、対照群と比較して有意に低下していた(132.9±91.7 vs 218.6±82.06)(p<0.0001)。
PsA、axSpA、SLE、LVVの患者では、血清陽性率は90%以上であったが、RAでは82.1%、AAVとIIMでは40%以下という低い陽性率であった。

免疫抑制薬毎のワクチンの免疫原性、対照群との比較(Table 4)
TNFi、IL-17i、IL-6iなどの抗サイトカイン療法を単剤で使用した群は97%以上の患者が適切な抗体産生を示した。抗CD20治療はワクチンの抗体産生を著しく低下し、抗体陽性率は39%と最も低かった。同様にGC(66%)、MMF(64%)、アバタセプト(62.5%)の使用群は抗体陽性率が有意に低下していた。全MTX 使用者の抗体陽性率は84%、MTX単独療法の抗体陽性率は92%であった。

リツキシマブの最終投与からワクチン接種までの期間と累積抗体陽性率(Figure1)
最終的なリツキシマブ投与からBNT162b2ワクチン接種までの間隔はワクチンの抗体陽性率に大きな影響を与えた。リツキシマブ投与後6カ月以内にワクチンを接種した患者の血清陽性率は20%以下であったが、リツキシマブ投与1年後にワクチンを接種した患者では約50%に上昇した。

抗体陽性率と関連する因子についての単変量・多変量ロジスティック回帰分析 (Table 5)
単変量解析では、65歳以上の年齢、RA、IIM、AAVの診断、GC、MMF、抗CD20、アバタセプトによる治療が抗体陽性率と関連していた。
抗体陽性率が最も高いPsA患者群を基準とし、年齢、診断名、メトトレキサートの使用、抗CD20抗体の使用で調整した多変量解析でも同様に関連性が確認された。

BNT162b2ワクチンの有効性
自己免疫性疾患患者には研究のフォローアップ期間中にCOVID-19感染はなかった。
対照群の被験者1名に2回目のワクチン接種後に軽症のCOVID-19感染があった。

BNT162b2 ワクチンの安全性(Table 6)
発熱や痛みなどの軽度の有害事象は、自己免疫性疾患患者と対照群で同程度であった。
対照群では重篤な有害事象はなかったが、2人の自己免疫性疾患患者が2回目のワクチン接種後に死亡した。
1人目はAAV患者で、ワクチン接種の3年前から低用量のプレドニゾン以外の免疫抑制療法を受けておらず、寛解状態であった。2回目のワクチン接種の3週間後に、劇症型出血性皮膚血管炎を発症し、敗血症を合併し、死亡した。
2人目はPsAの患者でセクキヌマブにより寛解していたが、糖尿病や虚血性心疾患などの複数の併存疾患を抱えていた。2回目のワクチン接種の2カ月後に心筋梗塞で死亡した。
その他、自己免疫性疾患患者で注目された有害事象としては、ぶどう膜炎(n=2)、口唇ヘルペス(n=1)、心膜炎(n=1)、帯状疱疹(n=6) が発生した。

AIIRD患者の疾患活動性に対するBNT162b2ワクチンの効果(figure2)
RA、PsA、axSpA、SLEの患者ではワクチン接種前後の疾患活動性の指標は大きな変化はなく、安定していた。

<結果の解釈・メカニズム>
mRNA BNTb262 ワクチンの接種により、自己免疫性疾患患者の大部分において、中和抗体が産生された。(抗体陽性率は対象群 100%、自己免疫性疾患患者 86%)
グルココルチコイド、リツキシマブ、MMF、アバタセプトによる免疫抑制療法が有意に抗体産生を低下させ、注意を要する。
一方でTNF i、IL17i、IL6iなどの生物学的製剤は抗体の産生を妨げなかった。

<Limitation>
コロナウイルス感染に対する中長期的な感染予防効果は示されていない。
長期的な副作用について検討できていない。
ランダム化していない。患者と対照者の年齢などのマッチングが出来ていない。
リツキシマブの使用量が多い。(日本とdose、使い方が違う)
抗体価(液性免疫)のみで細胞性免疫に関するデータはない。
PSLのDOSEでの検討は為されていない。
変異株に関する検討などはない。

 <どのように臨床に活かす?どのように今後の研究に活かす?>
(臨床)
膠原病患者のコロナワクチン接種において、疾患活動性や免疫抑制薬の種類に応じて、薬剤の休薬や調整などを考慮する。もしも国内でも追加接種などが可能な状況になるのであれば、3回目の接種なども考慮する。
※参考  既存の他の報告(Ann Intern Med.  2021 Jun 15;L21-0282)
臓器移植後の免疫抑制患者 計30名に3回目のコロナワクチンの追加摂取を行った。
3回目の投与前の抗体価は、低値陽性 6名、陰性 24名であったが、
3回目の投与後、陰性であった24名の抗体価が、
高値陽性 6名、低値陽性 2名、陰性 16名に上昇した。

(研究)
今後、リツキサン使用の適正な間隔、ワクチン接種時に休薬期間などを調べる研究結果が待たれる。

<この論文の好ましい点>
症例数が多い。臨床的意義がとても強い。Outcomeがしっかり明記されている。

 <この論文にて理解できなかった点> 
リツキシマブの使い方が不明。(DOSEと投与間隔が日本とは大分違う様子)
Figure1 の図の見方、累積陽性率の意味が分からなかった。
Table 5の抗体陽性率のadjusted ORで多変数で調整後も炎症性筋炎とANCA関連血管炎のオッズが低い理由が分からなかった。(一番の要因と思われるRTXの使用に関しては調整出来ているはず。PSLの割合が高いからなどが理由?)

担当:石井翔

 

 

 

 

 

 

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