ループス腎炎におけるフィルゴチニブとランラプレニブの安全性と有効性【Journal Club 20210908】

Phase II, randomised, double-blind, multicentre study evaluating the safety and efficacy of filgotinib and lanraplenib in patients with lupus membranous nephropathy
ループス腎炎(膜性糸球体腎炎)におけるフィルゴチニブとランラプレニブの安全性と有効性を評価する第Ⅱ相試験
Matthew Baker et al
RMD 2020;6(3)

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<サマリー>
ループス腎炎の膜性糸球体腎炎は治療薬に対するランダム化試験が不足している分野である。フィルゴチニブとランラプレニブをランダム化二重盲検試験で評価した。フィルゴチニブは蛋白尿を減量させる可能性がある。
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P:ループス腎炎(膜性糸球体腎炎)の患者
E:フィルゴチニブを投与
C:ランラプレニブを投与
O:16週時点での24時間蛋白尿の変化率

 <セッティング>
アメリカの15施設で行った他施設共同試験
2017年9月から2020年2月

<研究デザインの型:RCT、横断研究、前向きコホートなど>
16週のランダム化二重盲検試験 第Ⅱ相試験
1:1で無作為に割り付けされ、フィルゴチニブ200mg +PTMかランラプレニブ30mg +PTMを内服
16週時点で2回のUPCRの変化率が35%以上の減少を達せれば継続し、非達成の場合は切り替えを行う
その後32週で再評価し達成群は52週での再評価、非達成群は効果があったと思われる方へ切り替えが可能

<Population、およびその定義>
36ヶ月前までに腎生検で国際腎臓学会及び腎病理学会2003年の基準を満たした患者
eGFRの数値や1日尿蛋白量は問わない
抗核抗体か抗dsDNA抗体が陽性である
1年以内に6ヶ月以上の食事療法や1種類以上の免疫抑制剤(MMF・AZP・TAC・CyA・CYC・CB)の使用歴がある
投薬内容はPSL・HCQ・AZP・MTX・LEF、ACE阻害薬やARBの使用は可能
JAK阻害薬やBcell関連薬剤、その他の免疫抑制剤は試験開始前までに中止

<主な要因、および、その定義>       
フィルゴチニブ200mg +PTMかランラプレニブ30mg +PTMを内服

<Control、および、その定義>
なし

<主なアウトカム、および、その定義>
主要評価項目:2回の採尿によるUPCRの変化率
副次評価項目:1日尿蛋白量の変化量、eGFRの変化、スポット尿でのUPCRの変化量
         蓄尿でのUPCRの変化、達成した被験者の割合、部分寛解(1日尿蛋白量3g/日未満で、50%以上減少する)の被験者の割合、完全寛解(1日尿蛋白量なし)の被験者の割合
         補体成分の変化、抗dsDNA抗体レベルの変化、SELENA-SLEDAI、BILAG、PGA、PhGAの変化

<交絡因子、および、その定義>
なし

<解析方法>
記述統計

<結果>
フィルゴチニブ5名、ランラプレニブ4名で開始された
16週時点ではフィルゴチニブ4名、ランラプレニブ1名が継続されていた
フィルゴチニブ1名とランラプレニブ2名は副作用のため、ランラブレニブ1名はプロトコール違反のため脱落した
32週時点ではフィルゴチニブ3名、ランラプレニブ0名が継続されていた
フィルゴチニブ1名、ランラプレニブ1名はそれぞれ効果不十分のため変更されていた
52週時点ではフィルゴチニブ2名が継続されていた
フィルゴチニブ1名は効果不十分のため離脱していた

(Fig1)
患者背景はフィルゴチニブ、ランラプレニブの順に、年齢の中央値は28と36歳、女性が80%と75%、黒人は60%と100%であった
全ての患者の尿蛋白の中央値は2.9g/日であり、UPCRの中央値は2.1mg/mg、eGFRは101.0ml/min/1.73m2であった
PSL使用量は13.1mg/日と15.0mg/日であった

(Table1)
16週時点での1日尿蛋白量の変化率はフィルゴチニブで-50.7%、ランラプレニブで-2.8%であった

(Fig2)
16週時点での1日尿蛋白量の変化量の中央値はフィルゴチニブで-1.4g/日、ランラプレニブで-0.2g/日であった
16週時点での変化率が12%であり、フィルゴチニブよりランラプレニブへ変更になった1名は、蓄尿検体では尿蛋白量は70%減少し、蓄尿検体でのUPCRは51%減少していた
この患者は、残りの試験期間中もランラプレニブの投与を継続し、52週目には1日尿蛋白量の変化率が94.6%であった
フィルゴチニブ2名は、52週目の日尿蛋白量の変化率は中央値で78.3%であった

(Fig3)
SELENA-SLEDAIは、16週目までフィルゴチニブ4名のうち3名の中央値は7で変化なかった
52週目に到達したフィルゴチニブ2名のうち、1名は0から変化なく、1名の患者は6から2に改善した
フィロゴチニブ4名は、16週目にPhGAが71.4%、PGAが50.8%改善した
ランラプレニブ1名は、16週目にPhGAが14%悪化し、PGAが33.3%改善した
抗dsDNA、C3、C4の改善はいずれの群でも見られなかった

(Table2)
いずれの治療期間においても、大多数の被験者が少なくとも1つの有害事象があった
16週まででの最多は、好中球減少(フィルゴチニブ2名(40%))と気管支炎(ランラプレニブ2名(50%))であった
16週目までにグレード3以上は好中球減少・リンパ球減少・高コレステロール血症・低脂血症・SLEの悪化・急性腎障害であり、各1名であり、治療薬の中止になったのはランラプレニブ1名であり、好中球減少であった
16週目以降のグレード3以上はフィルゴチニブからランラプレニブへ変更された1例であり、好中球減少であった
静脈血栓塞栓症・帯状疱疹・悪性腫瘍・死亡はなかった

<結果の解釈・メカニズム>
JAK1はIFNαやIL-10、IL-21、IL-6などのサイトカインのシグナル伝達に関与している。また、SYK経路はBcellの活性化や遊走、Fc-γ受容体を介した骨髄細胞の活性化を通じて、炎症性疾患において重要な役割を果たしている
これらSLEにおいて重要な役割を果たすと思われる病因に関与する

<Limitation>
当初32人が登録される予定であり、予定であれば80%の検出率およびSDが50%であると考えられていたが、患者希望や担当医の判断により9名の登録となったため記述統計となった
対象がプラセボでないため効果があったと断定できない可能性がある
評価期間が短いため、膜性糸球体腎炎に重要な長期予後は不明

<どのように臨床に活かす?どのように今後の研究に活かす?>
難治例の治療の選択肢の一つとなりうる
免疫異常やSELENA-SLEDAIの改善がない点からは使用は限定的となる可能性がある

<この論文の好ましい点>
病態を考慮した上での治療選択肢を挙げている
Primary outcomeを宣言している点

<この論文にて理解できなかった点> 
ランラプレニブが有効性を示さなかった理由について不明であった

担当:徳永 剛広

 

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