SLEにおいて赤血球に残存するミトコンドリアがⅠ型インターフェロン応答を引き起こす

Erythroid mitochondrial retention triggers myeloid-dependent type I interferon in human SLE

Cell. 2021 Aug 19;184(17):4464-4479

Simone Caielli, Jacob Cardenas, Adriana Almeida de Jesus, Jeanine Baisch, Lynnette Walters, Jean Philippe Blanck, Preetha Balasubramanian, Cristy Stagnar, Marina Ohouo, Seunghee Hong, Lorien Nassi, Katie Stewart, Julie Fuller, Jinghua Gu, Jacques F. Banchereau, Tracey Wright, Raphaela Goldbach-Mansky, and Virginia Pascual

 

<Summary>

ミトコンドリア機能不全が全身性エリテマトーデス(SLE)の病因に寄与していることを裏付ける証拠が現れている。我々は、哺乳類の赤血球生成の特徴であるミトコンドリアの除去が、SLEにおいて異常を示す例があることを明らかにした。具体的には、ヒト赤血球の成熟過程において、低酸素誘導因子(HIF)を介した代謝スイッチが、ミトコンドリアのオートファジー除去に先行して必要なユビキチンプロテアソーム系(UPS)の活性化に関与していることを明らかにした。この経路の欠陥は、SLE患者においてミトコンドリア残存赤血球の蓄積を招き、疾患活動性と相関している。ミトコンドリアを持つ赤血球は、抗体を介してマクロファージに取り込まれ、cGASの活性化によりI型インターフェロン(IFN)産生を誘導する。従って ミトコンドリア残存赤血球とオプソニン化抗体の両方を保有するSLE患者は、SLEの特徴である血中IFN刺激遺伝子(ISG)シグネチャーが最も高いレベルを示すことがわかった。

 

<PICO>比較条件の異なる複数の実験を実施しており、複雑となるため省略

 

<背景>

全身性エリテマトーデス(SLE)の病態にはⅠ型インターフェロンが深くかかわっている。

(組換え体インターフェロンがループス症候群を誘発する、インターフェロン刺激遺伝子(ISG)のtranscriptional signaturesがSLE患者の血液中に多量存在する)

ゲノムワイド関連研究(GWAS)により、核酸の分解や感知に関わる分子やIFN型シグナル伝達経路をコードする遺伝子がSLE感受性に寄与していることが明らかになっている。

ミトコンドリア機能障害はSLEの病態と関連するとされており、好中球が酸化ミトコンドリアDNAを排出し、インターフェロン産生を刺激する。

低酸素誘導因子(HIF)を介した代謝の調節により、ユビキチンプロテアソーム系(UPS)が調節され、赤血球の成熟を促している。SLEではこの経路が阻害されることで、インターフェロン産生能をもつ赤血球が蓄積しやすくなっている。

 

<結果>

正常な赤血球系では、発生過程においてプログラムされたミトコンドリアの除去が行われる。

MitoTracker deep redを用いて、SLE患者の69.2%でミトコンドリアを含む成熟赤血球が確認された。また、ミトコンドリアに特異的なCOXⅣでの免疫化学染色や、透過型電子顕微鏡での分析でも成熟赤血球内のミトコンドリア様小器官の存在が確認された。また、ミトコンドリアを含む成熟赤血球の割合と、SLEの活動性(SLEDAI)は相関を示した。

赤血球の成熟過程において、ミトコンドリア蛋白質の除去は蛋白質の種類ごとに差があった。除去速度ごとにRapid removed mitochondrial protein: RRMPとSlowly removed mitochondrial protein: SRMPに分けられ、それぞれについてUPS阻害剤・マイトファジー阻害剤を加えた状態での除去速度を比較すると、RRMPの除去にはUPSが、SRMPの除去にはマイトファジーが作用しており、UPS→マイトファジーのタイムコースでミトコンドリア蛋白質の除去が行われていることがわかった。また、UPSを阻害するとミトコンドリアのオートファゴソームへの取り込みが著しく減少し、UPSはマイトファジーに先行するだけではなく、マイトファジーを行うためにも必要であることもわかった。

UPSの機能喪失変異を有するCANDLE症候群の患者血液から抽出した末梢血単核細胞を用いて赤血球の成熟過程をみると、in vitroでのUPS活性低下と相関してミトコンドリアの残存した赤血球を認めた。

ウサギ網状赤血球での研究では、15リポキシゲナーゼのはたらきで細胞内に侵入したUPSにより、ミトコンドリア蛋白質が分解されることが示されている。

多能性幹細胞(PSC)は分化に従って解糖系→酸化的リン酸化(OXPHOS、ミトコンドリア代謝経路)へとスイッチする。赤血球の分化においても、解糖系指標のECAR→ミトコンドリア系指標のOCR、MRC優位へのシフトがみられた。

ピルビン酸キャリア阻害剤の存在下で赤芽球を分化させた場合、ピルビン酸を基質としたミトコンドリア代謝が阻害され、これに続いてUPS活性の低下、ミトコンドリア除去の減少が起きた。ATP合成酵素阻害剤であるオリゴマイシンを使用した場合でも同様の結果であった。

酢酸、コハク酸、マロン酸などの存在下では変化なかったが、乳酸存在下でのUPS活性は低下し、翻訳後修飾としてlysine lactylation(Kla)がUPS活性に関連すると考えられた。

酸素が制限されると、OXPHOS→解糖系への代謝スイッチを行う必要があり、酸素感受性転写因子(HIF)は、グルコース取り込みと解糖系の制御遺伝子を転写活性化することで、OXPHOS→解糖系へのスイッチを行う。

SLE患者の末梢血単核細胞を用いた実験では、赤血球の分化過程でミトコンドリアが除去されるもの(R)とされないもの(NR)の2パターンに分かれ、NRの方が高いSLEDAIの傾向にあった。また、NRの前赤芽球はUPS活性を上昇させなかった。ユビキチンプロテアソーム系の構造異常や産生量低下はみられず、解糖系→OXPHOSへの転換が減少していた。解糖系を抑えるオキサミン酸ナトリウムの存在下では、NRの前赤芽球においてもUPS活性やミトコンドリア除去機能は回復していた。NRの前赤芽球においてHIFの機能はダウンレギュレートされておらず OXPHOS→解糖系へとスイッチするHIFの分解不全によりNRとなっていることが示唆された。

老化・酸化・IgGオプソニン化された赤血球は、細網内皮系のマクロファージによって貪食されているが、SLE患者のミトコンドリア残存した赤血球を貪食すると、ミトコンドリアDNAが強力なDAMPとして作用し、Ⅰ型インターフェロンの産生を促すと考えられた。

オプソニン化されたミトコンドリア残存赤血球が貪食されると、ミトコンドリア除去赤血球が貪食される場合と比較してTNFαやIP-10などのサイトカイン産生が亢進し、インターフェロン刺激遺伝子(ISG)の発現も亢進した。

ミトコンドリアDNAはTLR9やcGAS(ウイルスのDNAなどに対するパターン認識受容体)を介してインターフェロン産生を誘導できるが、ヒトのマクロファージではTLR9は発現していないため、cGASをターゲットとした。cGASのノックダウンによって、IP-10の産生は大きく阻害された。

また、赤血球をSLE患者の血清で前処理した後には赤血球が貪食されやすくなり、赤血球の貪食においてオプソニン化抗体が重要な役割を担っていることが示唆された。SLE患者の一部では、ミトコンドリア残存赤血球とオプソニン化抗体の組み合わせにより、非常に強いインターフェロン産生能が誘導されていると考えられた。

<まとめ>

<strong point>

赤血球の成熟過程とミトコンドリア除去に関して、既報での非赤血球細胞でのふるまいと一致する結果であった。

KlaがUPSの活性を制御することは、今まで報告されていない。

Ⅰ型インターフェロンおよびその受容体をターゲットとした薬剤は、芳しくない臨床試験の結果であったが、インターフェロン産生能の異常に関する患者の層別化を行うことで、より良い治療の結果につなげることができるのではないかと述べられている。

<limitation>

ミトコンドリア残存赤血球のインターフェロン産生能については、in vitroでの評価のみとなっている点。

赤血球生成時にHIFの分解/安定化を制御するメカニズムを解明する必要がある。

小児における赤血球のオプソニン化自己抗体の起源については、さらなる研究が必要である。

<本研究のよかった点>

通常ミトコンドリアが存在しないとされる赤血球の成熟・代謝過程において、SLE患者ではミトコンドリアが残存する例があり、Ⅰ型インターフェロン産生を刺激・SLEの活動性を増強しうるという現象を報告した最初の研究である。

複数の手法、in vitro/in vivo双方での実験を行い、ターゲットとなる経路を細かく切り分けて分析されていた。

<本研究でわからなかった点など>

 HIFの所まではさかのぼることができたが、その前になぜHIFのダウンレギュレーションが起こらなくなっているのかなど、まだまだ謎が多いことを実感した。

 SLE全例に当てはまる訳ではなく、Ⅰ型インターフェロンをターゲットとした薬剤は、SLE治療におけるsilver bulletとはなり得ないのではないかと感じた。

(担当:井上 良)

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