Arthritis Care & Ressarch. 2022 Jun 20. doi: 10.1002/acr.24974.
Association of Ultraviolet-B Radiation and Risk of SLE among Women in the Nurses’ Health Studies
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紫外線曝露量とSLE発症のリスクは相関しないが、紫外線暴露量が高い群ではSLE発症時の頬部紅斑リスクが高くなる。
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<背景と目的>
紫外線暴露はSLEにおける光線過敏症や発疹、SLE症状の再燃と関連していることは知られているが、SLEの発症リスクを高めるかどうかは不明である。そのため今回大規模な前向きコホート研究を行い、紫外線曝露量とSLE発症のリスクを評価した。
<研究デザイン>
前向きコホート研究
<対象患者・組み入れ基準>
・Nurses’ Health Study(NHS)およびNHSIIに登録された米国女性看護師。
NHSには1976年に30-55歳の女性看護師が121,700人登録され、NHSIIには1989年に25歳から42歳の看護師116,429人登録された。
<除外基準>
研究開始時にSLE発症や他の膠原病を発症している方
研究開始時の紫外線暴露データがない方
<方法>
・参加者はベースラインのアンケートと、2年ごとに追跡調査アンケートを受け、病歴、診断、環境危険因子、ライフスタイル、健康習慣を更新する。2014年(NHS)および2015年(NHSII)まで追跡された。
・評価方法:後述
・紫外線暴露:地理情報システム(GIS)においてジオコーディングされた参加者の住所と時空間分解能の高い紅斑紫外線暴露モデル(UV-AとUV-Bの波長を含む)をリンクさせた。住民の住所は2年ごとに更新され、番地または郵便番号レベルにジオコーディングされた。紫外線モデルには、NASAの全オゾンマッピング分光計(TOMS)およびオゾン監視装置(OMI)衛星センサーを用いて、雲量、緯度、標高、オゾンなどの既知の紫外線予測因子の情報を組み込んでいる。紫外線曝露量の中央値(IQR)は、T1(最低)。166 (161-168) mW/m2、T2 (中間)。176 (174-179) mW/m2、T3 (最高): 215(194-233)mW/m2。
<評価項目>
・主要評価項目:SLEの確定診断。
2人のリウマチ専門医が、スクリーニング質問票とカルテレビューで診断。
米国リウマチ学会(ACR)1997年SLE分類基準11項目中、少なくとも4項目を満たしている。
・副次的評価項目:皮膚症状、光線過敏症、抗体(抗Ro抗体/抗La抗体)
カルテレビューで評価する。
<統計解析>
Cox比例ハザードモデルを用いて、時間的に変動する共変量をコントロールしながら、三分位群における紫外線曝露とSLE全体およびサブタイプ別のハザード比(HR)と95%信頼区間(CI)を推定した。
共変量:年齢、人種、質問期間、収入世帯中央値、BMI、アルコール、喫煙、経口避妊薬使用、閉経後ホルモン使用、日焼け止め使用など
<結果>
・NHSでは115,600人、NHSIIでは103,228人の女性が解析に含まれた。
・平均年齢は、各コホートの紫外線照射の三分位値間で同程度であった。両コホートとも、紫外線照射の最高三分位(T3)の参加者は、他の三分位と比較して、非白人、アルコール摂取量5グラム/日以上、閉経後、閉経後ホルモン使用、日焼け止め未使用が多く、ベースライン時の現喫煙者の割合が少ない傾向があった(table1)
・NHS/NHSIIにおいて、追跡調査中に297例のSLE発症例があった。SLE診断時の平均年齢は49.8歳(10.6歳)で、ほとんどの女性が白人(91.6%)、ANA陽性(97.3%)。関節炎(74.4%)、血液学的病変(58.3%)。
・抗Ro/La抗体陽性は16.8%,皮疹陽性は45.1%,光線過敏症は57.9%で,抗Ro/La抗体陽性と皮疹および光線過敏症のいずれかを有するのは79.5%であった(table2).
・紫外線曝露量の最高群では、年齢と人種で調整した後(HR 1.24[95% CI 0.93-1.64])、BMI、アルコール、喫煙で追加調整した後(HR 1.28[95% CI 0.96-1.70]、p傾向 0.14)、SLE全体のリスクが増加したが有意ではなかった
・抗Ro/La抗体(HR 1.28 [95% CI 0.65-2.52]; p傾向0.34)、または光線過敏症(HR 1.29 [95% CI 0.88-1.88]; p傾向0.29)のSLE発症と関連するリスクは、紫外線曝露量の最高群で上昇したが統計的に有意ではなかった。
・累紫外線曝露量の最高群では蝶形紅斑を伴うSLEのリスクが統計的に有意に高かった(HR 1.62 [95% CI 1.04-2.52], p trend 0.07)。(Figure1)
<結果の解析・メカニズム>
・高紫外線暴露とSLE全体のリスクとの間に関連性は認められなかった。
・最高紫外線暴露群と抗Ro抗/抗La抗体を含む皮膚抗体、蝶形紅斑や光線過敏症を含む皮膚病変を呈するSLEのリスク上昇と関連している。
・紫外線はケラチノサイトを傷つけ、新しい自己抗原の産生をもたらすと言われている。皮膚ループス患者のケラチノサイトは、SLEの主要な炎症性サイトカインであるインターフェロンに対して過敏性反応を示す。紫外線は他にも多くの免疫調節作用も持ち、Th2細胞をアップレギュレート、Th1細胞をダウンレギュレートし、抗炎症サイトカインであるIL-10の産生を誘導し、T調節細胞の産生を増加させる。
<Limitation>
・NHSが主に看護職に従事する米国白人女性で構成されているため、男性や非白人などには適用できない可能性がある。
・紫外線暴露は住居で推定されているため、職場や余暇活動などは考慮されておらず、紫外線暴露の測定誤差が生じている可能性がある。
・本研究では被験者の平均年齢がNHSで40歳代、NHSⅡで30歳代であり、SLE診断時の平均年齢約50歳であることから、もっと若年発症のSLEの特徴は捉えられていない可能性がある。
<この研究の好ましい点>
・大規模な前向きコホート研究である。
・米国全土であるため、比較的広い地域の人を対象とした研究である。
・紫外線暴露が客観的な指標で評価されている
<臨床にどう生かすか>
・SLE患者さんに対して、紫外線対策の指導を行う際に役立てる
・住んでいる地域や活動量などによりSLEの活動性や再燃リスクを評価できる可能性がある。
担当:小西典子