Metformin to reduce metabolic complications and inflammation in patients on systemic glucocorticoid therapy: a randomised, double-blind, placebo-controlled, proof-of-concept, phase 2 trial
(メトホルミンをステロイド全身投与に伴う代謝合併症と炎症の減少に使用する 無作為化、二重盲検、プラセボ対照、概念実証、第2相試験)
Lancet Diabetes Endocrinol. 2020 Apr;8(4):278-291. doi: 10.1016/S2213-8587(20)30021-8.
——————————————————————————–
<サマリー>
既存の糖尿病のない炎症性疾患において全身ステロイド使用が長期に及ぶ患者をメトホルミン投与群とプラセボ群に割り付けした。臓器-皮下脂肪比などの代謝指標の変化を評価した.プライマリアウトカムである臓器-皮下脂肪量比は有意差無いが、 皮下脂肪量は有意に低下した. 他の代謝指標の改善に期待できた。
——————————————————————————–
P:既存の糖尿病のない炎症性疾患で全身ステロイドを長期使用した患者
I:メトホルミン介入群
C:プラセボ群
O:割り付け後12週後、12週以降の代謝関連項目の評価
<セッティング>
・UKの Barts Health NHS Trusts の4病院で参加した患者
<研究デザインの型:RCT、横断研究、前向きコホートなど>
・RCT
<Population、およびその定義>
18~75歳の経口または静注PSLを継続的に使用(≥20mg/dを≥4wk, さらに≥10mg/dをその後≥12wk継続, またはそれと同等の総量を使用した4wk以上の投与歴あり)している患者群を対象
除外基準:既存の糖尿病、6ヶ月以内のメトホルミンの使用歴、AST/ALT が正常から2.5倍以上、血清クレアチニンが男性135μmol/L(約1.53mg/dl)以上,女性110μmol/L(1.24mg/dl)以上。
<主な要因、および、その定義>
メトホルミン介入群はメトホルミンは850mg/dを5日間, その後1700mg 分2/dを5日間, その後2550mg 分3/d へ増量し12週間継続した。
<Control、および、その定義>
・プラセボ薬を投与した
<その他>
ステロイドは主治医が試験とは独立した判断で漸減の調整を行った
<主なアウトカム、および、その定義>
・主要アウトカム:
・12週以降の臓器-皮下脂肪比(visceral-to-subcutaneous fat area ratio )
※C Tで算出。
・副次的項目:
・身長、体重測定
・HOMA-IR(インスリン抵抗性の指標), HOMA2%B(インスリン分泌能の指標)、OGTT
・FGF21, TNFα、高感度CRP
・血中脂質代謝マーカー・
・βCTX, P1NP
・DEXA, 骨密度
・頸動脈IMT(内膜中膜複合体厚)
・副作用
<交絡因子、および、その定義>
・記載なし
<解析方法>
・サンプルサイズはCushing症候群と単純性肥満の比較において行われた試験が参考にされた。
・2つのグループの初期連続変数は、Shapiro-Wilk normality testとMann-Whitneyテストで評価された。
・カテゴリ変数は、カイ二乗テストによって評価された。
・統計的有意水準は5%とした。
<結果>
・849人の対象から108人の拒否、688人が除外され、53名が26人のメトホルミン群、27人がプラセボ群に割り付けられた。
メトホルミン群の7人/26人が消化器副作用の問題や予定日程が順守できず脱落した。プラセボ群の6人/27人が明らかな糖尿病の発症、ステロイド使用量における除外基準、予定日程が順守できず脱落した。
(Figure 1)
・患者背景
・平均年齢47歳/45歳、男女差なし
・平均BMI 27.3/28.5
・疾患:気管支喘息,血管炎、サルコイドーシス、SLE, RA, ILD, 筋炎他CTD/ぶどう膜炎
・介入前のステロイド期間と介入後のステロイド総投与量に有意差なし
・両者とも食事・運動療法を同程度受け、同等のアドヒアランスと評価された。
・Primary Outcome: 12週目と12週以降の臓器-皮下脂肪比 有意差なし
副次的項目)
皮下脂肪量の減少:プラセボ群と比較してメトホルミン群で有意に減少
臓器脂肪量の減少:プラセボ群と比較して有意差なし
体重、腹囲:有意差なし
空腹時血糖、HbA1cはプラセボ群と比較して有意に減少、メトホルミン群で12週間前後で有意に減少
HOMA-IR(インスリン抵抗性の指標):プラセボ群ではメトホルミン群に比較して有意に上昇
LDL-C:メトホルミン群で有意に低下
ALT:メトホルミン群で有意に低下
空腹感, 糖分渇望感:メトホルミン群で有意に低下
内頸動脈IMT:メトホルミン群で有意に肥厚進行の抑制あり
メトホルミン群では、より肥厚の強い群での縮小効果あり
BMD(大腿骨頸部):メトホルミン群で有意に上昇
高感度CRP: メトホルミン群で有意に減少
肺病変を伴う患者の呼吸苦VAS:メトホルミン群で有意に改善
リウマチ性疾患のglobal disease activity:メトホルミン群で有意に改善
有害事象)
・中等症から重度の感染症:プラセボ群で有意に多かった(11 vs 2 ;p=0.001)
・入院を要する事象:プラセボ群で有意に多かった(9 vs 2 ;p=0.001)
・下痢:メトホルミン群で有意に多かった(18 vs 8 ;p=0.001)
<結果の解釈・メカニズム>
・メトホルミンは既存の糖尿病のない全身ステロイド投与患者のインスリン抵抗性を主体とした代謝機能の種々の指標の改善に効果的であった。
・メトホルミンは既存の糖尿病のない全身ステロイド投与患者の感染症の発症頻度減少に効果的であった可能性がある。
・メトホルミンは骨密度の改善に効果的であった。
<Limitation>
・観察期間が短く、長期予後についての評価が難しい。
・サンプルサイズが小さい。
・副次的評価項目が多く、有意性の評価には慎重となる必要がある。
<批判的吟味>
・exclusionの内訳の詳細が乏しい。
・基礎疾患の重症度として、腎障害や、肝酵素以外の評価がされていない(低酸素血症など)
・気管支喘息といった、全身ステロイドの長期間投与が一般的でない疾患がexclusionに組み込まれていない。
・メトホルミンの用量、増量方法については日本標準療法と比較して早期かつ高用量である。
・他の血糖コントロールとの比較が今後の課題。
<この論文の好ましい点>
・RCTとして組まれている点
・安価で既存の薬剤であるメトホルミンという薬剤の有用性を再検討されている点。
・年齢、BMIの分布などが普段の日本の日常臨床の状況と類似している点。
<どのように臨床に活かす?どのように今後の研究に活かす?>
・現状、ステロイド糖尿病に対するコンセンサスは乏しい。メトホルミンはあらゆる副次的効果にも期待でき、全身状態の安定を前提としながらも、長期予後を規定するステロイド関連代謝異常に対しての積極的導入の根拠となりうる。
・非糖尿病患者への投与は日本では難しいと思われる。しかし血糖管理という側面以外にも、長期予後を規定する複合的な臓器保護作用が期待されることを把握した。軽微な耐糖能異常の出現でもメトホルミンの使用をステロイド患者には考慮してもよいかもしれない。
・他の血糖管理(インスリンや他の経口血糖降下薬)との対比や、薬価など考慮された対比の続報などに期待する。・より大規模のRCT研究の続報に期待する。
(担当:鷲澤)