Phase 3 Trial of Sotatercept for Treatment of Pulmonary Arterial Hypertension
肺動脈性肺高血圧に対するSotatercept第3相試験:STELLAR試験
M.M. Hoeper, D.B. Badesch, H.A. Ghofrani, J.S.R. Gibbs, M. Gomberg-Maitland, V.V. McLaughlin, I.R. Preston, R. Souza, A.B. Waxman,
E. Grünig, G. Kopeć, G. Meyer, K.M. Olsson, S. Rosenkranz, Y. Xu, B. Miller, M. Fowler, J. Butler,J. Koglin, J. de Oliveira Pena, and M.
Humbert, for the STELLAR Trial Investigators* )
N Engl J Med . 2023 Apr 20;388(16):1478-1490
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<サマリー>
肺動脈性肺高血圧症は、肺血管の増殖性リモデリングが関与する進行性疾患で、治療法の進歩にも関わらず、疾患に関与した死亡率は依然として高い。成長分化抑制蛋白であるソタテルセプトは運動耐能(6分間歩行試験)を上げる可能性がある(第3相試験)。
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P:肺動脈性肺高血圧患者
I(E):ソタテルセプト皮下注射
C:プラセボ(生理食塩水)皮下注射
O:運動耐応能(6分間歩行試験距離)の改善
<背景>
PAHの病態である肺血管のリモデリングは血管壁全層性に影響し、主に内皮細胞および平滑筋細胞の増殖と増殖に対するアポトーシス抑制により生じる。動物実験含めた最近の研究では成長因子(TGF-βファミリーなど)により、この病態が加速することがわかってきた(PubID 32404506)。ソタテルセプトはTGF-βファミリーの受容体ActRⅡA[アクチビン受容体ⅡA型]を阻害するヒトIgG1型受容体抗体製剤で肺血管のリバースリモデリングが期待される。過去の動物モデルを経て(PubID 35551212)ヒトへの臨床試験(PULSAR試験[第2相試験])へ移行。今回は臨床応用に向けて有効性安全性を検討した第3相試験になる。
<セッティング>
・21カ国91施設(白人主体、アジア圏は韓国)、2021年1月25日〜2022年8月26日
<研究デザインの型:RCT、横断研究、前向きコホートなど>
・第3相、多施設共同、二重盲検化、プラセボ対照試験(RCT)
<Population、およびその定義>
・WHO機能分類でⅡ〜Ⅲ度、右心カテ(≧5WU,PAWP≦15mmHg)で証明された肺動脈性肺高血圧患者
・現疾患として、静脈病変・感染・門亢症関連のPAHは除外されている
・試験90日前から、治療(肺血管拡張薬含む)介入も含み、安定された患者
・比較的若く(47.9±14.8歳)、323例中198例が3剤併用(61.3%)中であった
<主な要因、および、その定義>
・ソタテルセプト皮下注射(開始0.3mg/kg→維持量0.7mg/kg、3週間ごと)
・2回目以降に状態を見て0.7mg/kgの維持量に増量された
<Control、および、その定義>
・プラセボ(生理食塩水)の皮下注射(3週間ごと)
<主なアウトカム、および、その定義>
各項目は治療開始後24週目に評価された
・主要エンドポイント:6分間歩行試験歩行距離のベースラインより改善[m]
・副次エンドポイント:肺血管抵抗(PVR),NT-proBNP(30%以上の改善or<300pg/mL),WHO機能分類の改善,死亡やその他臨床経過の悪化までの期間、Frenchリスクスコア、PAH-SYMPACT QOL質問票(身体的,心肺項目,,,)
<交絡因子、および、その定義>
・母集団における 現疾患、人種 などの偏り
・ベースのWHO機能分類の程度
・ベースの肺血管拡張薬の使用
<解析方法>
・サンプルサイズの算出:nQueryソフトウェアにより算出
・交絡調整:IRT(AIによる自動割り振り)により、WHO機能分類およびベースの肺血管拡張薬の使用背景を、層別化ランダム割り付け
・対象者と治験者のダブルブラインド
・下記エンドポイントの解析対象はintention-to-treat集団のみで行った
・主要エンドポイント:Wilcoxonrank-sum検定、整列順位層別ウィルコクソン検定による対応するP値、95%信頼区間を伴う郡間差のHodges-Lemannロケーションシフト推定値
・αエラーを制御するためにゲートキーピング法によるP値の設定(P<0.05)
・安全性分析:MiettinenおよびNurminen法による95%信頼区間
・ハザード比:Cox比例ハザードモデルから算出
<結果>
・ソタテルセプト群 163人(145人は薬剤減量なく完遂)、プラセボ群 160人
・主要エンドポイント:24週目の6分間歩行距離のベースラインからの変化は、ソタテルセプト群では34.4m(95% CI 33.0〜35.5m),プラセボ群では1m(95% CI -0.3〜3.5m)で、2群間の差のHodges-Lehmann推定値は40.8m(95% CI、27.5〜54.1、P<0.001)でソタテルセプト群が統計学的に優勢を認めた
・副次エンドポイント:24週間時点における、PAH-SYMPACT QOL質問票の感情ドメインを除く、そのほかの評価項目は、ソタテルセプト群でプラセボ群と比較し統計学的に優勢を認めた。
・死亡または非致死的臨床的悪化事象はFigure2の通り、Kaplan-Meier曲線によると、約10週から分離を症じ(Log-RANK検定p<0.001)、追跡期間の中央値である32.7週後、ハザード比0.16(95% CI 0.08~0.35)であった。
・鼻出血・めまい・毛細血管拡張・ヘモグロビン濃度上昇・血小板減少症・血圧上昇が見られた。中でも出血(鼻出血・歯肉出血〜ソタテルセプト35例21.5%プラセボ20例12.5%)・毛細血管拡張(ソタテルセプト17例10.4%,プラセボ5例3.1%)はソタテルセプトで優位に認められた。試験中の重篤な有害事象はソタテルセプト群で13例(8%)プラセボ群で21例(13.1%)見られたが、重篤出血合併症に関しては差は認めなかった。
<結果の解釈・メカニズム>
・背景治療にソタテルセプトを加えることにより6分間歩行試験で評価した運動能力が改善する可能性がある。毛細血管拡張や出血などは留意すべき副作用である。
<Limitation>
・母集団には日本人は含まれていない、アジアは全体として1〜3%程度
・論文中にも記載されていたが今回設定された副次エンドポイント全てが真にSurrogateエンドポイントを示すかは不確かである
・今回は背景の肺動脈性高血圧として≧5Wood unitsの定義を満たすもののみincludeされた(2022年のESC/ERSガイドラインの流れは反映されていない[最近は≧2WU〜感度上げの風潮])
・膠原病患者は含まれていたが全体として10~20%程度、その他背景疾患はまばらであり、今後より背景を絞った評価も必要である
・試験を中止するほどではない明らかなAE(毛細血管拡張)が出現した際に盲検できず結果にバイアスがかかっていた可能性
・今回の研究では観察期間は7.5ヶ月(中央値)と長期投与時の安全性や有害事象評価は不十分で、また長期の治療反応性についても評価は不十分である
<どのように臨床に活かす?どのように今後の研究に活かす?>
・今後長期使用における安全性有効性の評価は必要であるが、既存の肺動脈性肺高血圧の治療に加えて作用機序の異なる4剤目の可能性がある
<この論文の好ましい点>
・難治性病態である肺動脈性肺高血圧症に対する新たな作用機序に着目した薬剤であり選択肢は広がる