Systemic lupus erythematosus-related acute pancreatitis.
全身性エリテマトーデスに関連する急性膵炎に関するreview
Dima A, Balaban DV, Jurcut C, Jinga M.
Lupus. 2021 Jan;30(1):5-14
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<サマリー>
SLEにおいて、急性膵炎はまれながら深刻な合併症のひとつである。正確な病因は不明であり、おそらく複数のメカニズムが関与していると思われる。コルチコステロイド高用量療法が悪影響を及ぼす可能性があり、他の臓器障害との兼ね合いもありながら、投与量の変更や血漿交換療法など他の治療法の検討を行うのがよい。
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<はじめに>
膵炎は、一般的には胆石やアルコールなどの原因により起こることが多いが、まれながら全身性エリテマトーデスに併発する例もみられる。
発生に関与するメカニズムとしては、これまでに自己抗体産生、自己免疫性血管炎、膵臓への免疫複合体の沈着、膵臓での微小血栓症、動脈および細動脈の閉塞や血管内膜肥厚、サイトメガロウイルスによる感染、抗リン脂質症候群(血栓症) 、TAC・AZP・コルチコステロイドなどによる薬物毒性などが挙げられている(Yu YK 2016、Wang Q 2016、Dhaou BB 2013など)。また、ステロイド関連膵炎の発生に関与するメカニズムとしては、膵液の粘稠度上昇、蛋白質含有量の増加、膵液中HCO3-の減少、アミラーゼ分泌の減少、免疫複合体や補体沈着の増加などが挙げられている(Dwivedi P 2019)。
<本研究のメソッド>
2007年1月から2020年1月までの期間で、PubMed/MedlineでMesh Termsの「Pancreatitis」と「Lupus Erythematosus, Systemic」での検索を行い、またWeb of Science search engineで「TS=(pancreatitis AND systemic lupus erythematosus)」での検索を行った。その後、慢性膵炎の症例、胆石やアルコールなどSLE以外の原因による症例、小児症例、急性膵炎が6件未満の論文を除外した。
急性膵炎の定義は、国際的なコンセンサスに従い、消化器症状の存在、リパーゼまたはアミラーゼの正常上限値から3倍以上の増加、超音波やCTでの画像上変化の3つのうち2つを満たすものとされた。
<結果>
PubMed/Medlineでは119件、Web of Scienceでは153件の論文が特定されたが、6人以上の患者の研究またはケースシリーズに絞ると全部で11件が解析対象となった。Hopkins Lupus Cohortからの1件を除いて、残りの10件は全て後ろ向き研究であった。女性対男性はおよそ9:1の比率であり、平均年齢は31.4歳であった。急性膵炎発症のタイミングは初診から10年以上までさまざまであったが、SLE診断後2~3以内での発生が多いように思われた。最もよくみられる症状は腹痛であり、ほとんどすべての症例にみられた。また、患者の半数以上が嘔気、嘔吐、発熱を訴えた。
急性膵炎の診断の詳細や、合併症・転帰に関する検査パラメータは数件の論文のみに記載されていた。膵炎の原因となりうる低Ca血症や高TG血症の割合は報告により異なった。患者のおよそ半数が低Alb血症であった可能性があった。重症例では白血球減少がみられ、最大4分の3の患者で貧血が、20%から50%の患者で血小板減少がみられた。
疾患活動性はいずれの論文においても高い傾向にあり、SLEDAI scoreは14~22であった。急性膵炎を伴うSLE患者では幅広い臓器での障害がみられた。漿膜炎は60~70%と高い割合でみられ、また重篤なループス腎症や神経ループスも関連している可能性があった。ほぼすべての例で補体低下がみられた。APSを含む自己抗体については、関連性の有無については評価困難であった。
急性膵炎の治療にあたって、コルチコステロイドや他の免疫抑制剤がどのように効果し、あるいは有害であったかについては評価困難であった。報告された死亡率は高く、30%~50%に及ぶものも多かった。
<議論>
SLEに合併する膵炎のうち、胆石やアルコール、薬剤性など他の要因を含まないSLE関連膵炎の割合については文献によって大きな差がある(19%~82.9%)。この違いは、急性膵炎を特発性として定義するために設定された閾値が文献により異なるためと考えられる。
SLEにおいて、コルチコステロイドと急性膵炎の関係は明確ではない。SLE関連膵炎の転帰がコルチコステロイドの投与下で良好であるというデータがある一方、現在または過去のコルチコステロイドが、特に重症のSLE患者において膵炎の発症と関連するとの報告もある。また、剖検研究では、ステロイド使用歴のある患者では膵臓の炎症が33%vs5%と6倍以上の頻度であった。
血漿交換療法後に良好な転帰を報告した研究が1件あり、有用な治療法のひとつとして検討されうる。
マクロファージ活性化症候群は、特に小児期に発症した急性膵炎のSLE患者に発生することを示した後ろ向き研究があった。
貧血、高TG血症、高コレステロール血症、肝検査異常は急性膵炎を有するSLE患者でより頻度が高いが、これについては原因と結果の両方にかかわっている可能性がある。ネフローゼ症候群、食事などの要因、コルチコステロイドの長期使用などが影響する可能性がある。
多くの場合、急性膵炎は疾患期間が短い患者にみられ、呼吸不全や腹水、感染症、急性腎不全、腹膜出血、循環ショックなどの複数の合併症が報告された。これらの合併症のためもあり、SLE関連膵炎の死亡率は30%以上と高くなっている。
<limitation>
対象となった論文の数や症例数が少なくエビデンスの度合いは低いため、ナラティブ・レビューの形となっている。
担当:井上良